第27話

 二日目の朝を迎えたソウタはゆっくりと目を覚ます。


 ホテルのバーでメリーベルとアタラに散々にいじり倒されながら酒を飲み、時間を迎えたところでヒトミとリンが迎えに来たところまでは記憶があったが、気がつけば自室のベッドで寝ていた。


 何とか二日酔いに備えて水分を補給して薬を飲んでいたのだろう。そこまでダメージは無いようだった。


 だが、ベッドの脇を見ると、思わず頭を抱えてしまう。


「二人とも、何やってんだよ……」


 電気は付きっ放しで、テレビも早朝のニュースが流れている。自分のシングルベッドの横にはオセロのゲーム盤にトランプの札にジュースにお菓子が転がっていた。そしてベッドにもたれかかって、ヒトミとリンがならんで寝ていた。


 後ほど聞いたところ、どちらが残ってソウタを介抱するのか譲らず、朝までゲームやおしゃべりをしながら夜明け近くまで起きていたのだという。


 その経緯を聞くと、ナタルは訳がわからず、シーナは夜更かしでゲームは楽しそうだと羨ましがり、アタラは純粋に呆れ、メリーベルはコオロギのように笑い続けていた。


「ソウタくん、運転は大丈夫?」


「アルコールチェッカーで図ったけど問題なかったよ。時間通りに出発さ」


 この日は平日。向かうのはこの近郊では最大で、国内でも有数の規模の遊園地なので人が多いのは避けられない。


 だが、土日祝日や夏休み期間中ではないので、それなりに楽にアトラクションを回れるはずだ。


 高速道路のサービスエリアで休憩すると、皆はトイレの使い心地や、手洗い水まで温水になっていたことに驚いていた様子。


 皆にソフトクリームを食べさせ、さらに乾きものの菓子に飽きたメリーベルは豚まんを買い食いしてご満悦の様子。


 さらに一時間ほど車を走らせると、ようやく目的の遊園地に到着した。


「できるだけ離れ離れにならないようにしてくれ」


『はーい』


 まず真っ先に向かったのは一番人気のジェットコースター。平日の開場から早い時間でも30分待ち。シーナが退屈しないように携帯ゲームを貸したところ、メリーベルの方がハマってやりこみだしていた。


 ジェットコースターは落下にスパイラルにとかなり強烈なもので、乗り終わると皆が大興奮していたが、唯一日本人であるはずのヒトミだけが腰を抜かしてヘナヘナになっていた。


「ふ、ふぁわぁぁぁ……」


「おいおい、圧倒的大軍と怪物どもを蹴散らした女将軍ともあろうものが、これでヘバっちまうのかい?」


 ニマニマ笑いながらメリーベルがヒトミの背中を叩く。


「ご、ごめんなさひぃ」


 仕方が無いので回復するまでメリーゴーランドやコーヒーカップにシーナとナタルを乗せたが、これにはリンが一番ハマっていたようだった。


「じゃあ次は……」


 次にホラーハウスに向かう。霊的な存在を信じがち、また実際に力を持っている世界の住民が児戯と捕らえてくれるか賭けではあったが、本気で怖がっていたのがヒトミとリンとメリーベルで、他は楽しんでいたのである意味成功であった。


 ヒトミがフラフラになっていたのでソウタが手を貸そうとしたところ、急にリンがヒトミの手を引いた。


「しっかりなさって下さい、シシノ将軍。そうやって……、ずるいですよ」


「ご、ごめんなさい」


 目を回しながらヒトミは詫びる。


「それにしてもシシノ将軍、貴方の故郷の遊具でこんなに驚くものなのか?」


 アタラは率直に疑問を口にした。


「む、むかしからこういうのにがてなの……」


「ならば無理せずともいいだろうに」


「でも私が引率しなきゃ……」


「なるほど。義務感で苦手なものでも立ち向かう。それでこそ一国の将軍だ」


 フードコートでハンバーガーやフライドポテト、ポップコーンを昼食に。特にナタルの口に合うのか心配したが、おいしそうに食べていたので安心する。


 食後に3D映像のアトラクション。ゴーカートにゲームコーナーでゾンビ撃ちゲームにダーツなどに興じ、観覧車で締めとなった。


 観覧車の座席はくじ引きで決定。4人乗りの観覧車には、ソウタ、アタラ、リンの3人組と、ナタル、シーナ、メリーベル、ヒトミの4人組に分かれて乗る。


 観覧車が上昇するにつれて、遊園地から市街地、海が見渡せる絶景が輝いて見える。


「こんなにも高くから眺められるのですね……」


「ここの観覧車は確かに大きいけど、もっと高い建物はたくさんあるよ。首都の東京には山よりも高い天空の塔があるからね」


「ですがこの素晴らしい景色を、閣下と一緒に観ることができて……」


 リンの黒く長い髪が、眼鏡の奥にある瞳がキラキラと輝いて見えた。


 一行は遊園地を後にして、水族館に向かう。山や砂漠で育った者が多かったので選んだ場所だが、巨大水槽に圧倒されたり、イルカやアシカなどのショーに歓心している様子だった。


 水族館を出ると、この日の宿泊先の旅館に向かう。山に入ったところの天然温泉に山海の幸を売りにしている旅館だった。


「やぁぁっと酒が飲めるよ!」


「メリーベルさん、お酒の事ばっかり……」


 旅館は2人1部屋の4室。ソウタは男一人なので1部屋丸々使える。そして温泉は他に客は少ないようで悠々と露天風呂の湯船に浸くことができた。


「ああ~~疲れた……」


 女湯からは喧騒が聞こえてくる。まだ不慣れな上に、早速酒を持ち込んだのであろう一人がさらに騒ぎを起こしているようだった。


 湯上りからほどなく夕食の会場に向かう。本来なら座敷で食事となるのだが、無理を言って机と椅子で取れるよう依頼済み。


「あらかじめ言っておくけど、本格的に飲んでいいのはナタル姫とシーナちゃんの食事が終わって大人だけになってからだからね」


「あいよ」


 出てきたのは、謳い文句通りに海川の魚に、高級な牛肉のステーキなども出てくる豪華な料理だった。量はともかく味付けは薄味だけに不安もあったが、口にあったようで皆きれいに食べ終えた。


「閣下ぁ、アタシは足りないねぇ」


 ジョッキでは物足りず、ピッチャーでビールを飲んでいるメリーベル。さすが海賊。さすが女傑。


「そう言うだろうと思って、続きの手配はしてあるから、好きに飲み食いしてくれ」


「さすがです閣下!」


 赤ら顔になっているリン。ワインをグラス二杯というところだろうか。


「まあ、当然だな」


 ビールを一人でジョッキ五杯は飲んでいるのに顔色が全く変化していないアタラ。


「そういえばソウタくん、お酒飲んでないよねぇ~。飲めるのにどうしてぇ?」


 顔を赤らめて上機嫌になっているヒトミは日本酒を1合というところだろうか。確かにソウタはビールをコップで一杯飲んだ程度に抑えていた。


「まだやることがあるからに決まってるだろ……」


 そう。ナタルとシーナが寝るまでは酔いつぶれるわけには行かないのだ。


「じゃあ、二人を部屋まで送ってくるよ」


 ソウタは足のふらつきを自覚しながら、二人を連れて席を立った。

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