第25話

「そんな次第で資金だけじゃなく、味方も確保してきたぞ」


 城門で出迎えるエリにソウタは淡々と報告した。商隊の後に続く者たちの身なりは誰も彼も粗末だが、海賊たちもエ・マーヌ兵も実戦慣れした者たちばかり。


「すごいじゃない!さっすがソウタね!」


「やけに素直な反応だな。珍しい」


「そりゃあこれだけ味方を連れて来たんだから褒めるわよ!他にご褒美は無いけど!」


「はいはい。期待はしてませんよ」


 城下にはメリーベルの海賊たちと、エ・マーヌの残存部隊が続々と到着し、ちょっとした騒ぎになっていた。


 改めて王宮の広間に、海賊団を率いるメリーベルとエ・マーヌのナタル姫とマガフが案内された。


「まずは、はるばる東のエ・マーヌから来られたナタル姫、表を上げて下さい」


 古代ギリシャのヒマティオンに似た服装に身を包んだナタル姫は、緊張からか小刻みに震えが出ていた。


 彼女がゆっくりと立ち上がり顔を上げると、エリは駆け寄り、しっかりと優しく包み込むように抱きしめた。


「こんな華奢な体で……、何年も放浪していたなんて……」


 こらえきれなくなったのか、ナタル姫は嗚咽を漏らしていた。


「もう大丈夫よ。貴方が自分の故郷に帰れる日まで、このカ・ナンが貴方の第二の故郷になるの。そして私がお姉さんになってあげるから。もう我慢しなくていいのよ」


 完全にこらえきれなくなって、人目はばからずナタルは号泣した。そしてその光景を目にして涙を流さぬ者は誰もいなかった。


「エ・マーヌの忠臣マガフ殿。勇士たちと共に、このカ・ナンのために力を貸して頂けませんか?」


「エリ女王陛下がナタル様を妹君として受け入れてくださるならば、我らもまたカ・ナンの兵として、命ある限り共に戦い抜くことをお誓いましょう!」


「そしてキャプテン・メリーベル」


「ああ。アタシたちは誰の配下にもならないのを信条に生き抜いてきた海賊だ。だが、命を助けてもらった恩義はキッチリ果たすよ!」


 エリはクスリと笑うと、満面の笑みを浮かべて告げた。


「わかりました。正式にあなたたちを迎えましょう。部隊名は……、ソウタ、どうする?」


「そうだな……。海賊じゃあ人聞き悪いから、海兵団でいいんじゃないか?」


「海が無いのに海兵団ねぇ……。まあいいわ、キャプテン・メリーベル。そんなわけで貴方を海兵団の団長に任じます!」


「おう!」


「メリーベル、あとで貴方のお話も聞かせて頂戴。私、外の世界のこと知りたいの!」


 解散して退席する面々。メーナはソウタを捕まえて尋ねる。


「宰相、連中は本当に使えるのですか?」


「うん。大丈夫だよ」


 メーナの問いにソウタは答える。


「その根拠は?」


「エ・マーヌの軍は今は疲労困憊してるけど、各地でゴ・ズマと戦い続けてきた手馴れだ。その上、マスケット銃を大量に持っていて、しかも使いこなしている」


 ソウタがエ・マーヌ軍の受け入れを即断した理由は、彼らの窮状に同情したことも大きいが、何より彼らが杖代わりに手にしていたものが、マスケット銃だったのが大きかった。


「銃という武器は、それほど使えるものなのか?」


 この地に存在していた火薬兵器は、簡易な手投げ爆弾と、金属の壷に棒を取り付けたハンドカノン。そして初歩的な城攻め用の大砲しか無いので、メーナは銃の威力について、正確な認識を持っていないのだ。


「マスケット銃は、諸国で出回っているハンドカノンとは威力も射程も命中精度も段違いなんだ。カ・ナンではまだ試作してもらってるいる段階だけど、エ・マーヌ軍が落ち着いたら、その威力を披露してもらおうと思う」


「そして海賊は船に乗り移っての切り込みはもちろん、上陸して奇襲強襲は手馴れたもので、その上、最新の火薬兵器の扱いにも長けてる」


「なるほど。あとは彼らをどこまで信用していいのか、ということか」


「それも大丈夫。どっちもゴ・ズマには恨みがあるから、少なくともゴ・ズマと戦う限りは裏切らないよ」


「そうか……。ならば良いのだが」


 ソウタは彼ら新戦力が裏切る可能性は、その経緯から考えて無いと確信していた。そしてその確信は後日実際に示される事になる。


 後日になるが、エ・マーヌ兵は銃を装備した者たちは銃兵団として、大砲を扱う者たちは砲兵団として正式に軍制に組み込まれ、銃兵団長には特にマガフが就任する事になった。


 合わせてオオカミとそれを操り弓を用いる猟兵たちはアタラを団長に猟兵団として整備され、ヒトミは騎兵団長と兼任して全軍の総指揮を執る将軍に任命されたのだった。

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