第5話
再び車を出し、20分ほどの距離にある大型ディスカウントストアに向かう二人。ディスカウントストアなら深夜まで開店している店が多いからだ。
「ソウタくん、私、お金は……」
「どうせお金持ってないんだろ。全部出してやるから気にするな」
「あ、ありがとう……」
雨脚はずいぶんと弱まってきたのでワイパーの速度を落とす。幹線道路沿いに出たが、それほど車両は多くないのでマイペースで車を走らせる。道中にコンビニが数件あったが、そちらを使うのは万一の時だ。
目的の店に到着した。営業時間中で閉店までまだ一時間半はあるので急かされる心配はない。
「こっちだ。ちゃんとコーナーがあるぞ」
大型のディスカウントストアだけあって衣類も一式揃っていた。
「俺の服だとサイズが合わないだろ?下着以外も遠慮なく買っていいぞ」
「い、いいんだよ!長居するわけじゃ、ないから……」
ヒトミは遠慮して下着を上下一着ずつに留めてしまう。購入すると、そのままトイレに入って着替えを済ませたようだ。
「もう大丈夫なのか?」
店の出入り口で再度確認する。
「うん。大丈夫だけど……。やっぱりお金は……」
「なぁに、費用分はヒトミの身体で払ってもらうよ」
「!!」
身体で払ってもらうというと聞いて、ヒトミは顔をトマトのように真っ赤にして息を呑んだ。
「わ、わかったよソウタくん……。わ、私なんかでよかったら……。じ、自信はないけど、精一杯がんばるから……。や、やさしくして……」
「ああ。明日の朝食をさ、全部作ってくれたらそれでいいよ。お米以外はあんまり家に置いて無いから、食べたい食材を選んでくれよ」
ソウタの依頼を聞いて、ヒトミはパチンと何かが弾けてしまった。
「もう!ソウタくん驚かせないでよ!」
「おいおい、何だと思ったんだよ!」
出入りのない店の玄関で、しばらく二人で笑いあった。外の雨は、ほとんど止んでいた。
食材を購入して帰宅すると時刻は11時を回っていた。食材を冷蔵庫に入れて、米を磨いでタイマーをセット。
「じゃあ、明日の朝食はよろしくな、ヒトミ」
かつての母親が使っていた部屋の前。寝る前に一言。
「お、おやすみなさい」
「ああ、その前に」
「?」
ソウタは冷蔵庫から、よく冷えたスポーツドリンクのペットボトルを出してきた。
「喉、渇いたらこれ飲んどけよ」
「あ、ありがとう……」
ヒトミの部屋の引き戸が閉まる。しばらくすると、ヒトミの部屋からすすり泣く声が聞こえてきた。懸命に押し殺そうとはしているようだが、どうしても声が漏れているのだ。
ソウタはあえてヒトミに声を掛けず、明日に備えて登山用の大型リュックに、登山ではなく、サバイバルを前提にした装備を詰め込み始めた。
(さて、何が待っていることやら……)
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