第2話 ~千晶と詩②~
「ちーちゃん、確認できた?」
翌日の講義にて随研の友人の少女と遭遇した千晶は、明るく聞いてくる彼女に対して人当たりの良い笑顔を返した。
「誤字脱字はないけど文が接続不良を起こしてる箇所がいっぱいあったよ。それは仕様?」
「文が接続不良って…」
少女はよれっとした紙束を千晶から受け取った。パラパラとめくって指摘された箇所を見る。
「だいたい私の作品に関して注意してるじゃん!!」
「いやぁ君の文章は独特だったな~」
「嫌みを言わないでよ…真剣に書いたのに」
「冒頭に『努力に結果が伴わなかった例です』って書けば?」
「ひたすらひどい…。」
わざとらしく肩を下げてしょんぼりとしてみせる彼女に、千晶はふと気づいた風を装って一番上の詩を指差した。
「これ、これすごく気になったんだけど」
「ああ、朽田先輩の文ね」
彼女はなれた手つきで紙束をクリップで挟み直しながら言う。
「すごいでしょその韻の踏み方。途中で私訳わからなくなっちゃった」
「まぁ僕も意味が分かった訳じゃないけど」
きれいに束ねられた状態となった紙束を二人の真ん中に置いて、二人は詩を眺める。
「なんかさぁ」
彼女は頭からなんとか絞り出したように言う。
「…鏡の国のアリスを原文で読んだことありそうだよね、この先輩」
「あーわかる、しかも暗唱できそう」
「たしかに」
ふたりで肩を寄せ合ってくすくす笑う姿はまるで少女が秘密話をしているようだ。
「オヤジギャグにならないところで韻を踏みつつ意味を持たせすぎない気持ち悪さが私は好き」
彼女の分析に千晶は反論気味に言う。
「気持ち悪いっていうか気味悪いっていうか、妙な普遍性じゃない?この文、すごく人に意地悪な難題を投げつけて来るみたいだよ」
最後の一文を苦く噛むように千晶が言うのを嫌らしく笑いながら彼女がからかう。
「叶わない恋に覚えでもあるんですかー?」
「あるよそりゃ」
千晶たちのまわりの人たちの注目がじわりと千晶に集まるのを千晶は感じた。
そりゃそうだろう、女装しつつ男性を自称する同級生の恋愛事情など美味しい非日常に違いない。
「なにそれ、くわしくー」
彼女の追及を避けるように苦笑いしつつ千晶が時計を指さす。
2限の始まりだ。
周りの落胆すら固形で見えてきそうな勢いであった。
入ってくる教授と入れ違いに、千晶の意識はふんわりと過去に沈んでいった。
待ち受けと過去の自分が重なる一瞬だった。
F*ckin' shit sweetheart @283rdstudent
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