蜘蛛の巣

愛川きむら

蜘蛛の巣

 蜘蛛の巣って素敵。ただ見ていればそこにはないのに、ふとした変化には弱くすぐに姿を見せてくれる。そしてまた柄も素敵。一見おなじように見えるだろうけど、実はどれも違うのよ(これはただの想像だけれど)。そして、茂みに粉砂糖をまぶして柄を暴きたいわ。

 久しぶりの晴天。長い曇天に巻かれていたはずが、今日になれば元々そこにいなかったかのように去っていた。まるで急に現れたかと思えば、あるはずもない噂に鼻息を荒げる主婦みたい。ああ、嫌になっちゃう。きっと外に出ればジメッとしていて空気も濁っていることだわ。外に出たくない。このまま薄暗くひんやりとした自室に篭って思いっきり本を読破していきたい。

 シフト表を見てため息をついた。残念ながら出勤日。私は外に出なければいけない。うんざりしちゃう。ちょっと可愛いからってあの天気予報士、大外れなこと言わないでちょうだいよ。私にとっては大迷惑だわ!

 決心して扉を開ける。息を止める。ムワッと気持ち悪い風が吹き込んで――。

「こないわ!」

 なんて大声ではしゃぎだせるほど若くもない。ホッと安堵の息をついた私は、ひとつにまとめた髪を揺らして歩き出した。

 道端はまだ濡れている。空き地の雑草もキラキラしている。ふと、足元の草にあるちいさな蜘蛛の巣が目に入った。どうしてそこに蜘蛛の巣があるとわかったのか。それは太陽の日差しに反射したそれが、一瞬だけ幻のように煌めいたからだ。まるでガラス細工のような輝きにうっとりしちゃう。心も踊りはじめる。なんだか今日はいいことがありそう。なんて考えは、近所の小学校で起こる運動会の騒音で断ち切られた。


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蜘蛛の巣 愛川きむら @soraga35

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