7


 と、それまでずっと黙っていたオーガスタが凛とした声で言う。


「……本当にそう思えるのかしら、皆?」


 皆は一斉に銀白色の癒し手を見た。ヴァリアントがすかさず言う。


「何故あえてそれを言う?あんたのパートナーじゃないか、トレアンは――」


「ずっと前に思った時と同じ。まだ嫌な予感は続いているのよ、はっきり言うと。繋がりが増えると、厄介なことがますます増えるわ。つまらないことで争う者もこれから出てくるわよ……皆がそれにきちんと対応出来るような人々であることを願うしかないけど」


 事実、と彼女はその後を続ける。無駄口を叩くドラゴンはいなかった。


「人間のことをあまり良く思っていないパートナーだっているでしょう、あなた達?」


 すうっとあたりに涼しい一陣の風が吹いた。


 しばらく、仲間が互いに吹き出す鼻息の音だけが聞こえていた。彼らは考えあぐねているようだった。


「――我がアドルフは、人間を好いている。しかし、頭領であるが故にはっきりと表立っては言えなかったとのこと。つまり、オーガスタの言った通りだ」


 赤金色のカイザーが言った。それに返すように、砂色のルシアが唸る。


「あたしのクラウスは、信じるって言ってた。クラウスには下の兄弟が六人もいるし、近しい人もまだ沢山いるから、その人を争いに巻き込みたくないと思ってるのよ、きっと。それに、西の町の人間とも仲が良いし」


 呼応するかのように、ドラゴン達は次々と喋り出した。


「カタリーナも信じると言っていた」


「ハインツも人間を認めていたわ。後、私の娘も」


「でも、ワルトブルクの者達はどうも難しい顔のままだぞ?」


「それを言うなら、うちだって。あのような利益好きの軽い連中は駄目だって喚いてた」


「でも、あたし達のパートナーが利益にこだわらないのは、欲しいものが手の届く所にいつもあるからよ。そして、あたし達も一緒」


 と、そこで一頭が言ったので、再び辺りは静かになった。


 どうするべきだろうか。これ以上彼らと関わらないようにして、避けて生きるというのも一つの策だった。しかし、彼らは西の者達に協力すると取り決めた。それと同時に、自分達の信頼してきた愛するパートナーと離れることなど、考えてもいなかった。そうして離れることがたまらなく寂しく思えたのは、初めてだった。


「……もう少し様子を見るか」


 ヴァリアントが言う。皆はそれに唸って答えた。何より今はそうするしかないように思えたし、彼らはまた自分のパートナー達と人間達が今後どのような関係を築いていくかを見ていたかった。もしかすると、湖に住むエンスプリトスがセナイというエルフと同じようなことを思っているかもしれない、と考えることも出来た。そして、自分達も同じように穏やかな生を求めているということにふと気が付く。今まで戦いすぎたのだろうか?


「予感はする。だけど、信じて待ちましょう、皆で」


 オーガスタは穏やかに言った。


 夜空を雲が流れていく。ただ彼らは首を伸ばし、それぞれの金色の瞳で思い思いの世界を視た。

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