第26話 子供の将来

リュードとレイミの子供「アルバート・クロスラッシュ」が産まれてから一週間。

ようやく退院するレイミ。リュードは乳母車を押し、レイミと共に病院を後にする。


時折立ち止まってはしゃがんで息子のアルバートをあやす。

やはり産まれたばかりの自分の子供がかわいくてかわいくて仕方がないのだろう。


「リュード、風も強くなってきたから早く帰りましょう?」


「おお、そうだな。アルちゃん(アルバード)が風邪ひくといけないならな」


家に着いたリュード達はいつも通りリビングのソファーに腰を掛ける。


しばらく落ち着いた後、リュードがレイミに話しかける。


「なぁレイミ、やっぱりアルバートを産む時の陣痛っていうのかな?あれってやっぱり痛いんだよね?」


陣痛のことを率直に聞くリュード。しかし、レイミは特に気にするそぶりを見せずに答える。


「・・・うん。正直、ホントに痛かったよ・・・。痛いなんてものじゃないよ・・」


「ゴメン、あまり思い出したくなかったよな?」


レイミは笑みを浮かべながら首を横に振る。

そんな様子を見てリュードは『え?聞いて良いの?』と解釈し、さらに突っ込むようにレイミに問いかけた。


「じゃあさ、陣痛と昔俺たちが闘ってきたあの闘いと比べると、どっちが大変?」


「???」


いくらなんでも大人げない質問だったか?さすがにレイミも首をかしげていた。


「いや・・・俺さ、世界一を目指してるじゃん?だからさ、その・・『痛み』というか、君が陣痛を体験して、一回り君が大きくなったように見えるんだよ。でもさ、俺って試合に出て勝っても、自分では一回りも二回りも大きくなったかっていうと、あんまり実感ないんだよな・・・。だから、俺が一皮むけるには、陣痛と同じぐらいの痛みを味わなくちゃいけないのかなって・・」


リュードはソファーのひじ掛けに肘をついて茫然と一点を見つめたまま物思いにふけっていた・・・。


「痛みの大きさ・・じゃないんじゃないかな?」


「え?」


「確かに、陣痛は男には経験できないけど、経験できないから一皮むけないっていうのは違うと思うよ?・・・・・闘ってたあの頃と陣痛、どっちが大変かって言ったら、痛みだけなら陣痛の方が辛いけど、でもあの時の闘いだって、私達辛かったよね?痛かったよね?いっぱい涙も流したよね?・・・・・でも、痛いだけじゃなかったと思う。辛いだけじゃなかったと思う」


「レイミ・・・」


「私達、ただ傷つけ合ってただけじゃないよ。相手を傷つけるってことは自分の心も痛むのよ。痛みを感じた時、その痛みとどう向き合うか・・・それが大切なんだと思うよ。リュードだって、試合で相手を傷つけても、何かしら感じることはあるでしょ?その心がある限り、リュードはこれからも人として大きくなっていけるわ」


「そうかな・・・」


「うん、私には分かるわ。リュードはただ相手を倒したいから闘ってるんじゃないよ」


レイミは寄り添うようにリュードの隣に座り、リュードもレイミの肩に手を回す。


ジィーーー・・・


そんな寄り添う二人をベビーベッドの格子の隙間からジッと見ていたアルバート君


二人は恥ずかしながらに顔を赤らめて離れる。


・・・・・しばしの沈黙の後


「ねぇリュード。アルちゃんが大きくなったら、リュードみたいに武術をやらせるつもりでいるの?」


レイミはアルバートにリュードと同じ道を歩ませるのかと聞く。


リュードはしばらく考えるように黙り込む。


「・・・やらせないよ。いや、『やらせたくない』って言った方が正解かな。俺はこの道の危なさも怖さもキツさも知ってるから、やらせたくはないね」


その言葉を聞いて、レイミはうっすらとだが、ほっと息をなで下ろしたような様子を見せる。

やはり親としては危険だからやって欲しくないのだろう。


リュードは再び口を開く。


「でも、アルちゃんがもし自分からやりたいって言って来たときは、護身術としてやらせてあげたいね」


リュードは護身としてはやらせたいと言ってベッドの上のアルバートを見て微笑んだ。

レイミもゆっくりと頷きながら・・・


「フフ・・そうね、護身としてね」

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それぞれの明日へ向かって 神無月 怜華 @barbaccia31

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