『呑』


蛍、蛍、来い

こっちの水は甘いぞ

蛍、蛍、来い

そっちの水より甘いぞ

蛍、蛍、こっちへ来い

蛍、蛍、こっちへ、恋

あの日見た貴方の光は余りにも美しく

いっそこの大きな羽根を捨てて

水の中に落ちていけたらどれだけ幸せなことでしょうか

泉の真ん中に咲く蓮の花

蜜を吸う振りをして降り立った

その日から花びらに隠れて貴方を見ているけれど

貴方は気付いてくれないのでしょうか

蛍、蛍、来い

こっちの水は甘いぞ

この花の蜜は、甘いぞ

蜜を吸った蝶も、甘いぞ

もうすぐ十日 蛍の命日

叶わぬ恋が終わる明日

終ぞ 知られず朽ちるなら

この身を溶かした、この泉を、飲み干してはくれまいか

それとも貴方の躯を連れて

共に泉に呑まれましょうか


(291文字:20160702)

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