3ページ
社長で金持ちでイケメンという、超ハイスペックおじ様の常盤さんは、たまにこうやってふらりとやって来て酒とトーク(ほぼふざけた会話)を楽しんで帰る常連客の一人だ。正直恰好良すぎて(チャラさ以外)憧れる存在なのに、憧れている自分を認めたくないくらいには変な人だ。
「花菱くんはいつもつれないなぁ」
「そんなことないです。これが通常モードです」
「そんなことないでしょ? 女の子には優しくしているじゃない」
「女性だからじゃないです、お客様にはみんな丁寧に接客しています」
数名の常連客以外はね。なんて。
「えー、私の時はなんだか素っ気ない気がするなぁ」
「御冗談を」
「出会ったころは初々しくてもっと可愛かったのになぁ」
おいやめろ、そんな風に上目づかいで見つめるな。
「あの頃の花菱くんはまだちょっと不安げだったよね」
「え? マスターにもそんな時があったんですか?」
おい食いつくな。
「もちろんだよ。グラスをサーブした後、不安そうにチラチラ私の顔を見たりしてね」
ふふふ、と思い出したように笑いだす。
俺だってあの時はまだ独立して一年とかだったから新規の客の時は緊張していたんだよ。普通だろ! 独立して四年経った今でも顔に出さないだけで緊張しながら酒作ってんだよ。ポーカーフェイスが上手くなっただけ!
「あの頃の花菱くんは可愛かったなぁ」
「今だって可愛いでしょう、私は」
皮肉っぽく言ってやると、常盤さんはそれすらも予測していたように余裕の笑みで頷く。
「あぁ、可愛いねぇ。もちろん斉藤君も食べちゃいたいくらいにね」
それはコマリマース。
「恐れ入ります、スタッフは非売品でして、ご注文は不可となっております」
「おやおや、残念だ」
嘘つけ。
「はは。常盤さんって相変わらず面白い方ですね」
斉藤君がくしゃりと笑ったから、つい俺も表情を緩めてしまう。常盤さんはそれを見て愉快そうに笑った。
「私はね、こうやって素敵な子とお話しするのが楽しみなんだよ。こう見えてもおじさんの仕事は忙しくてね。ここでパワーを貰っているんだ」
それから屈託なく笑って「ありがとう」と続けた。
お礼を言うのはこっちだっての。あと、常盤さんが楽しみにしているのは“お話し”じゃなくて“からかい”だろ。まったく、常盤さんには
「敵わないなぁ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます