死にたがり生きたがり

あめ

生きたいと思った

 

 こんなに生きたいと思ったことはなかった。

 どうして私なんだと思った。

 わたしが死の宣告を受けて思ったことは、最後に主人公が死んじゃうような、お涙頂戴系ドラマや映画でよくありがちなセリフと同じだった。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 原因不明の難病だそうだ。いつか突然、なんの前触れもなくパタリと死んでしまうのだとか。いつ死ぬかわからない。死が訪れるのは明日かもしれないし、一年後、二年後、もしかしたら五年後やもっと先かもしれない。

 治療法は、ない。


 私がそんな難病を患ったとしても、時間は少しの狂いもなく過ぎていく。

 高校二年生の西本朱莉は、不安と焦りを抱きながらも高校へ向かう。親には高校も行きたくなければ行かなくて良いと言われたが、家にいる方が気が滅入ってしまってかなわない。

 体は健康のように感じるが、そうではないらしい。今日もいつものように朝起きて顔を洗い、朝ごはんを食べ、制服を着て、電車に乗って学校に向かったが、不調なんてひとつもない。いつ死ぬかわからない状態と言われても全くピンとこない。

 10月もまだ半分過ぎたところだが、制服もブレザーだけではそろそろ寒い。カーディガンもそろそろ出さなくては――通学路をのろのろ歩きながらそんな呑気なことを考えてしまう。今日死んじゃうかもしれないのにお気楽なものだ、と朱莉は内心苦笑した。死にたくないと思っていても、体は元気だし、その時がやってくるのがいつなのかわからない以上気も緩んでしまう。

 今日もきっといつものように授業を受け、休み時間には友人と雑談して時間を潰し、やがて放課後がやってきて、電車に乗って家へ帰り、夕食を食べ眠るだろう。

 もうすぐ死ぬのだから何かしたほうがいいのではと思っているのに、死ぬからという理由で何かをするのは嫌だと思う。私は生きたいのだから。


 毎日そんな事を考えていたら胃に穴が開いちゃう、となるべく考えないようにしていたが、やはり気持ちは落ち着かない。

 朱莉は教室で友人たちとお喋りすることさえ億劫になり、校門をくぐった後、教室には行かず屋上へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死にたがり生きたがり あめ @ametake

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る