英雄達のいるパーティで、魔法の使えない俺は、前衛として、頑張って生き抜いていく(仮)
小鉢
第1話 模擬戦
倒されても、起き上がり、立ち向かった。
身体が痛みで重くなり、心が不甲斐なさに悲鳴をあげても、立ち向かう。
何度でも、何度でもだ!
周りからの憐れみの視線があつまる。
"諦めろ、諦めろ、届くはずがない"と。
だが、俺は誓う、
" 命ある限り諦めない!! "
起き上がる度に、痛みを忘れ、力が湧き上がる。
心は、勝利への渇望で研ぎ澄まされていく。
ハーベスト王国の西部は【魔界】と呼ばれる魔物の領域に面している。
魔界から溢れる魔物の被害に悩まされた王国は、西部に守護拠点を築いた。
拠点の名は【ウエストアンカー】、現在は、西部の中心都市に成長している。
また、魔物の脅威に対して、軍だけでは、対応できず、傭兵ギルドが設立された。
ギルド設立により、傭兵の地位は確立され、やがて、多くのパーティが乱立した。
いつしかパーティ同士が協力しクランと呼ばれる組織で結ばれていく。
クランは強力な軍事力を持ち、魔界の一部を開放する偉業を成し遂げる。
王国はその功績を認め、クランに対して地位の保証と活動の自由を認めた。
クラン時代の幕開けだ。
西部中心都市【ウエストアンカー】には、幾つかのクランが活動している。
その一つ、クラン【深淵】の支部で、模擬戦が開催されていた。
模擬戦主催者のパーティ名は【漆黒】。
リーダー自ら、新メンバーの実力を仲間に披露する為、相手をしていく。
一人目の黒髪の小柄な少年と、茶髪の騎士が打ち合い始めて三十分以上経過した。
最初は直ぐに決着が付くと誰もが思った。
なぜなら、少年の技量が未熟で、特に、防御面は酷いからだ。
さらに、相手の騎士は名の知れた傭兵で、当然、少年は何度も吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
何度も、何度も、少年は吹き飛ばされ、同じ光景が繰り返される。
少年から流れ出た血は、土で汚れた服を赤く染めていく。
あまりにも一方的で激し過ぎる打ち合い。
何度目の事だろう、少年が、また弾きとばされ地面に倒れる。
「もうやめろ…」
幾人かの観戦者が口々に叫ぶ。
だが、少年には届かない。
小さな身体は、勢いよく起き上がり……闘い続けている。
その度に、少年の動きが良くなっていく。
さらに、傷は直ぐに塞がっているようだ。
その治癒力は異常だ!
剣を打ち合う、リズミカルな金属音が断続的に鳴り響く。
ドン
不意にまた、鈍い音がし、少年が、いつものように吹き飛ばされていく。
「あぁ〜!」
訓練場全体に溜息が広がる。
だが、今回は違った。
その短い脚でしっかりと地面を掴み駆けていく。
「ドリャーッ!」
少年は魔力を、いや気合いを込め、剣を一気に振りだした。
剣は少年の想いに応え赤く強く輝いている。
その輝きは、命の象徴のようだ。
僅か十三歳の少年が放つ、その剣の輝きに、廻りの者達は、息を呑みこみ、期待した。
その期待は直ぐに失望にかわる。なんという事だ!
少年が放った渾身の一撃も、容易く躱されてしまったのだ!
その辛い現実に、訓練場は、落胆の色に染まった。
さらに、相手の騎士は、魔力を剣に載せ少年に襲いかかる。
あまりにも冷たく鋭い、その一振りは、少年の肩に当たった衝撃で砂塵を舞い上げた。
訓練場は、砂塵の闇に包まれていく。
" 少年の死 "
誰もが連想した。
砂塵が収まり、視野が明るく広がる。
訓練場は驚愕した。
剣を肩で受けた少年が、再び立ち上がり、反撃の構えを見せている。
その姿にだ。
「ここまでだ」
騎士が、突然、告げる。
「逃げるな!」
「ソロもう充分だ、実力は示した。これ以上やっても無駄だ!」
俺は納得がいかない。
なぜなら、まだ、身体が動くからだ。
動けるなら、戦える。
当たり前の事だ!
だから、俺は強い抗議の視線でギルを睨んだ。
「勝敗は関係無いと言っている! 無駄だ!!」
「次は、ルッツだ。早く来い!」
騎士は強い口調で戒め、大声で次の相手を呼んだ。
訓練場の端から、金髪の背の高い少年が、慌てた様子で駆けてくる。
「ごめん、ソロ、次は、僕の番だ」
金髪の少年は、その華奢な腕で、俺の肩を叩き、間に割り込む。
俺は、まだ納得がいかない。当然だ!
血だらけの俺は、訓練場の隅に行き、不機嫌そうにあぐらをかいた。
「坊主、大丈夫か?」
「残念だったな」
「相手が、【英雄の再来】じゃ仕様がねえ。落ち込むんじゃねぇぞ!」
周りの男達から、労いや、励ましの声が次々と掛けられる。
適当な返事が思いつかないので、
「全然納得いかねぇ!!」
大声で気持ちを吐き出した。
「元気じゃねぇか」
傭兵達は、笑い声で応えた。
模擬戦で痛めた身体が急速に回復し、全身の痛みが消えた。
心に余裕ができ、意外と多い観戦者に思いを巡らせる。
相手の騎士の名は、ギル、【英雄の再来】と呼ばれる実力者で、その容姿も端麗だ。
更に、人柄が良く、人望もあるらしい。
そんな評判の人物がリーダーを務める新パーティのメンバーに興味があるのは当然だ。
その上、今、戦ってるルッツも、金髪の美少年だ。
俺の時より、女性の観戦者が多い……
自慢にならないが、俺は、背が低く、顔はまあ、普通だ。
自分で比較して惨めになっていく。
「納得いかねぇ!」
俺は、小さく、再び呟いた。
中央の模擬戦を眺める。
金髪のルッツは、身体と剣を風魔法で強化し、縦横無尽に攻めている。
その容赦無い攻めを、ギルは、悠々と剣で受け流し続けた。
しばらくして、お互い納得したらしく、模擬戦が、あっさり終了した。
「アニー出番だよ」
ルッツがこちらに近づき、隣の女の子に向かって話し掛けた。
「する意味あるのかなぁー」
首を傾げた拍子に、栗色のおさげが揺れている。
無えよ。
魔術士に剣の腕?
いらない、いらない。
俺なら即答だ!
でも、ルッツの意見は違うようで、
「僕は、魔術師も剣を扱える必要があると思ってるよ」
なにやら、説得している。
いくつかの問答が続き、
「まっ、いいかっ」
アニーと呼ばれた女の子は、あっさりと説得に応じ返事した。
女の子は、膝丈のスカートを揺らしながら、ギルの元へと元気よく駆けていく。
揺れるスカートから伸びる、白い脚を見て、魔術士の剣の技量に興味が湧いた。
さぁ、魔術士の振るう剣が如何程のものか見せてもらう!
戦士なら当然の好奇心であり、断じて邪な気持ちがあるわけでは無い。
もう一度言おう、断じて無い!!
無いったら、無いのだ!!
しばらくして、女の子の模擬戦が始まった。
右へ、左へとステップを踏み、剣を振るって打ち合っているようだ。
膝丈下のロングブーツと、膝丈のスカートの間から覗く白い肌の面積が、動く度に変化する。
大きくステップを踏めば、当然スカートの揺れも激しくなり、隙間も大きくなるが、パンツは見えない。残念では無い!断じて!!
俺は、ガキのパンツに興味は無いのだ!
ちょうど今は、こちらに背を向けて戦っている。
自然とお尻に目がいく。男なら当然だ!
「丸いなぁ〜」
みたままを、理知的に的確な表現で、俺は、呟いた。
俺の隣で、ルッツは熱弁を振るう。
「現代魔術士にとって、接近戦の技術の習得は必須です。そもそも、一部の高位の魔道士以外、杖など不要で、剣の柄に魔石を仕込んで魔術媒体として……」
つまらん……
馬鹿かこいつは!
その間、剣の打ち合う音はリズミカルに続いている。
「魔術師で、あれだけの動きができるのは、凄いと思います。」
ルッツが呟く。
「あれだけの動きをして、見えないのは凄い」
俺も応じる。
「何が?」
「何って、パンツだよ!」
ルッツが、あわあわと固まっている。
馬鹿は、放っておこう。
俺は、見えない理由を深く考える。
女の子は上下に動かず、左右のステップに徹している。
この動きこそが、要に違いない。
左右の動きで、スカートは揺れるが、めくれない、だから最終防衛ラインを突破する事ができない。
つまり、そういう事だ。
「上下の動きが必要か……」
俺は呟く。
ルッツは、まだ、あわあわしている。
見えそうで、見えない、膠着した状況が続く。
絶対領域に至る方法は存在する。
俺は、既に、攻略の方法を思いついていた。
一つ目は、ギルが攻め方を変え上下に揺さぶるか、二つ目は、俺の視点の位置を変えるかだ。
ギルに期待はできない。なぜなら、イケメンだからだ! あいつらは、糞だ!
なら、俺が破るしかない。
問題は、どうやって、視点を下げるかだ。
地面に這い蹲るなどは、ダメだ。
そんな奴は、変態でダメダメだ。
自然な姿勢で無ければ、ダメなのだ。
そう、俺は紳士なのだ!!
俺は、あぐらをかいたまま、身体を横に傾け顔を地面につける。
見よ! そして、崇め称えよ、この完璧な自然体を!!
あとは、充分に下がった視点から、視線を一点に集中させるだけだ。
女の子の膝が見える。
精神の全てを、一点に。
女の子の膝がこちらに向かってくる。
来い! あと、少しだ!!
あと少し!?
膝は、動かない!
あれ?
なぜ、動かない?
刺すような視線を感じて、顔を上に向けると、女の子と目があった。
「ヘンタイっ!」
と叫ぶ声が聞こえる。
「変態がいるらしいぞ、ルッツ」
ルッツは、あわあわしている。
大丈夫か、ルッツ。
なんて事だ、変態のせいで、俺の挑戦が、無駄になってしまう。
俺は、万一の場合にも備え、姿勢は変えず、集中する。
そうだ! 戦士は、いかなる時も油断しないのだ!!
膝丈のスカートは、目の前で揺れている。
スカートから剣先が、俺に伸びてくる。
俺に?
いやいや、隣りのルッツの間違いだろう。
ルッツは、ずっと、あわあわとして挙動不審だ。
変態のムッツリに見えるかもしれない。後で、慰めてやろう。
スカートの間違いを正さなければならない。
「おい、剣を向ける相手がちがうぞ」
剣先が小刻みに震えている。
「どこ見て話してるのよっ」
「スカートに決まってるだろ、わかれよ!」
「こっち見て、謝れ、ヘンタイッ」
「誰がヘンタイだ!!」
俺は、視線を上げ、胸をみた。
残念だ。
そこには、何も無い荒野が広がっていた。
しばし、荒野を眺めて、視線を更に、上にあげた。
「がんばれ!」
「ド、ド、何処みて励ましてんのよっ!」
とっさに胸を片手で隠し、顔を真っ赤に染め、身体を小刻みに震わし、全身で感動を表現している。
「荒野にも、希望の丘はある、がんばれ」
俺は、更に慰めてやる。
荒野に用は無いので、絶対領域攻略の為、今度は前に身体を倒し視点を下げる事に挑戦する。
「何してんのよッ!」
スカートの剣は、炎を宿し、猛烈な勢いで、俺の頭に直撃し、地面の底へと押し込んだ。
めり込んだ頭を、全身で引き抜き、強い口調で知的に抗議した。
「何しやがる、このヒステリー女!」
「あんたこそ、さっきから何してんのよ、こ、このヘンタイッ!!」
「ストレッチに決まってんだろ、このバーカ!!」
「死ね、ヘンタイ、そして、滅びろッ!!」
物騒なセリフが聞こえ、足元に鮮やかな魔法陣がスッと広がる。
周囲から人の気配が一瞬で消え、視界が炎で包まれる。
「アッ、熱いじゃねえかぁ! こ、このバーカ、バーカ、バーカ!」
俺は、炎をレジストして叫ぶ。
心の叫びだ。
「きゃー!!!」
「ひでぶっ」
俺は、炎の剣で頬を殴られ飛ばされていく。
直ぐに立ち上がろうとした時、何処からか外套を投げ込まれた。
「そこまで! 落ちついて自分の姿を確認しろ!!」
確認?!
俺は、自分の身体を確認する。
頭の傷も、頬の腫れも完治している。
炎を浴びた身体にも、ほら、火傷の跡も無く綺麗だ。
身体?!
「きゃーッ!」
俺は、漢らしい悲鳴を上げ座り込み、外套を手に取り、丸くなった。
限界まで酷使された衣服は、最後の炎で力尽きて無くなっていた。
綺麗サッパリと。
「もお、お嫁にいけない……」
目に涙を溜めて呟いた。
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