村上さんちの事情(仮)
にゃべ♪
こちらサイド
隆の場合
第1話 迷い人茜 その1
僕は村上隆15歳、地元高校の普通科に通う一年生。地元は景色と特定産業が有名な地方都市。今日は天気がいいので何となく散歩を楽しんでいた。
その道中でわりと大きめの地元駅前まで来た僕の目に困っている女子が目に飛び込んで来る。その子は身長は170cmの僕より少し低いくらいかな。顔はまぁまぁ可愛くて服装もラフな感じ。体型は――あんま知らない人をジロジロいやらしい目で見る訳にもいかないよね。
彼女は何か困っているのか、辺りをキョロキョロと見回している。少し気になったけど人見知りな僕が話しかけられる訳もなく、そのままスルーして通り過ぎようとしたその時だった。
「ねぇ」
「えっ?」
彼女の方から突然話しかけられて僕はドキッとしてしまう。緊張のあまり顔は見られない。
しかしこれから一体何て言われるんだろう? 僕に答えられるような事だったらいいんだけど……。
「ちょっと聞きたいんだけど、いい?」
「はぁ……」
ああ、折角彼女の方から話しかけてくれたのに、多分すごく勇気を出して尋ねて来たと思うのに――僕はなんてやる気のないそっけない返事をしてしまったんだ。
ここでうまくやりとりをすればもしかしたら違う世界の扉だって開けたと思うのに……やっぱダメだなぁ。人見知りはやっぱダメだ。
僕が頭の中でぐるぐる自分の情けなさを撹拌していると、彼女からの質問が始まった。
「ここ、日本だよね?」
「はい」
ん? 彼女の質問はちょっと謎だった。大体、場所を聞くのに普通日本から聞く?この時、彼女の雰囲気に違和感を少し感じてはいたけど、まだ緊張しっぱなしだった僕はその質問に素直に答えるばかりだった。彼女の場所の確認はその後も続く。
「四国? だよね?」
「はい」
「愛媛県?」
「はい」
質問の度に段々と地名が具体的になって来た。それでも目の前の彼女が日本人なら分かりきった質問には違いない。この人ってもしかして帰国子女とか海外で育った日系の人か何かなのかな? そうしてこの質問は更に続く。
「
「背後の駅名読んでくださいよ」
あんまり彼女の現在地確認の質問がしつこいので、僕はつい突っ込んでしまった。この言葉に振り返った彼女は駅名をしっかり確認してつぶやく。
「あ、やっぱりそうなんだね」
「あの……」
彼女が一体何を聞きたいのか、真意を測りかねた僕は思わず彼女に話しかける。
けれどそんな僕の質問をまるっと無視して彼女は話し続けた。
「あ、ごめん、確認出来たからいいや」
「も、もういいですか?」
何だか分からないけど彼女の中で自己完結したみたいなので、この状況が少し怖くなった僕はその場を立ち去ろうとする。
しかし、彼女はそんな僕を簡単には離してくれなかった。
「で、ここからが本題なんだけど」
「えっ?」
どうやら今までの現在地確認は彼女にとって質問のさわりでしかなかったらしい。このトークテクニックに僕は呆気に取られていた。じゃあ何で長々と現在地確認なんてしたんだろう? って言うか今治駅の文字が読めるなら現在地の確認の質問は最初から必要なかったんじゃ……。
色々と僕の頭の中で疑問がぐるんぐるんと回る中で、彼女は話の本題と言う事でついにとんでもない事を言い始める。
「ここは私の知っている世界じゃないんだよ」
「は?」
彼女のこのカミングアウトに僕は言葉を失う。お前は一体何を言ってるんだ? ネットで有名なあの画像が僕の脳内で再生されていた。この言葉を前にどういう態度を取ればいいのか分からなくて動けなくなった僕を前に、彼女は突然自己紹介を始める。
「改めて自己紹介しようか、私は茜。
「あ、
突然の自己紹介に僕もついつられていた。何だ? 何なんだ一体……。自己紹介までしてこれから何がどうなるんだ? 僕はこの全く先の予想出来ない展開にゴクリとつばを飲み込んだ。次に彼女は僕に衝撃的な一言を告げる。
「じゃあ隆君、ちょっと付き合ってくれない?」
「えっ?」
彼女――茜の突然の告白に僕は体が硬直する。彼女いない歴=年齢の僕はこう言う状況に全く免疫がない。ずっと固まっている僕を見て彼女は困った顔をして話を続ける。
「どうやら私は違う世界に迷い込んでしまったみたいなの。戻る為に協力してくれない?」
「いや、その……」
ああ、付き合うってそう言う事ね。って言うか、そもそもまだこの話の前提から頭が理解してないんだけど……。自分の知っている世界じゃないって、この言葉をそのまま受け取るなら、異世界からこちらの世界にやって来たとかそんな感じになる訳だけど――目の前の彼女はそんな風には全然見えないし、もしかして僕をからかっているのかな?
だとしたら、こんな僕みたいなただの少年を捕まえてそんな遊びをする理由って何だ? 罰ゲームか何かとか? そう思った僕は辺りをキョロキョロと見渡した。これが罰ゲーム的なアレなら多分見える範囲に関係者がいるはず!
けれど人通りの少ない田舎の駅前にそれっぽい人影は見当たらず……もしやドローンで撮影か? と思って空まで確認したけれど、見上げた空は雲以外何も浮かべてはいなかった。
僕が周りをキョロキョロ見渡すばかりでずっと反応しないものだから、変に気を使った彼女は慌てて口を開く。
「あ、今忙しい? それなら別に……」
「そ、そう言う訳じゃ……」
この質問にも僕は口ごもってしまった。今の自分の気持ちを彼女にどう説明していいのか分からない。真剣な顔で困っている彼女を前に本気で言ってるんですか? とか、言える訳もないし……。
「もしかして信じられない?」
「えぇと……はい」
その態度から彼女に本音を見透かされた僕は素直に頷いた。すると彼女は自分がそう思うようになった経緯を話し始める。
「隆君は正直だなぁ。私もね、最初は違和感なんて感じてなかったのよ。文字も読めるし言葉も通じるし。景色もまるで一緒だし」
「はぁ……」
言葉が通じるって言うのはまぁ分かるとして、景色が一緒で文字も一緒ってそんな異世界なんてラノベですら聞いた事がない。この時、彼女の話をどこまで真面目に聞けばいいんだろうと、僕はそればかりを考えていた。
「でも違うの。ここは私のいた世界じゃないの」
「えっと、ひとつ、いいですか?」
ずっと話を聞いていても一向に知りたい情報に辿り着けそうにないと思った僕は、敢えて彼女に質問をする事にする。
「茜……さんは迷い込んだそうですけど、どうしてそんな事に?」
「あ、そうだよね、それは知るべき情報だよね。迷った原因が分かってこそ、帰る条件も分かるって話だもんね」
どうやら彼女は僕の言いたい事を理解してくれたようだ。まだ半信半疑だけど――って言うか全く信じてはいないんだけど。この話を早く終わらすにはこちら側から確信に近い事を聞いていく方がいい。
こう言う厄介な事例はまともに取り合わないのが一番なんだろうけど、見ている限り、彼女が嘘を言っているようにはとても見えなかったし、もうちょっとこの設定に付き合ってみようかなって。僕もちょうど暇だったし。
この質問に対し、彼女は何かを思い出すように空を見上げて、それから話し始める。
「私は猫を追いかけてたの。多分それが原因」
「じゃあ、その猫を見つければいいんじゃないでしょうか?」
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