ちょっと変わった話

斉藤なっぱ

スイッチ

夢を見ていた。どのような夢だったのか、あとから少しも思い出すことができずにいた。はっとして飛び起きると、押してくださいといわんばかりの大きなスイッチが部屋の中央におかれていた。もしかしたら僕はまだ夢の続きを見ているのかもしれない。黄色くて真ん中に赤いビックリマークのあるそのスイッチは、

なんだかマリオのブロックを彷彿とさせるものだった。おそるおそる近寄ってみると、そのスイッチは陳腐なプラスチックで出来ていて、なぜか蛍のごとくピカピカ点滅している。電源はどうなっているのだ。

そのスイッチにはコードが端のほうから伸びていて、スマホの充電器がコンセントから抜かれていてそこにスイッチのコンセントが刺さっていた。たしか一昨日、僕は寝落ちして、起きると充電が切れていた。やっぱりだ。スマホの充電は5パーセントになっている。すると何者かが僕が寝静まった直後このスイッチを僕の部屋に設置したということだ。そう思い至った僕は、戦慄した。やはりこれは夢なのではないのかと部屋の電気を消し、再び毛布にくるまって何度か寝ようとしたが、暗い部屋にネオンのように佇むそのスイッチは夜の闇にいっとう存在感を放つのであった。

寝れるわけがない。うとうとすらできず僕は小一時間そのスイッチを正座しながら見つめた。このスイッチが置かれた理由はまるでわからないが、その物体の言いたいことはひとつしかない。自分を押せということだ。

ふと時計を見ると3時をまわっていた、いったいいつからこのスイッチのことを考えていたのだろうか、明日だって仕事がある。僕の中の悪魔の部分はこんなもの壊してしまうのだと命令してくる、善良な部分は無視してしまえという。なぜか押すという選択はない。あまりにも不気味で、僕は恐怖のあまり泣き出してしまった。

こんなとき、どうしたらいいのだ。垂れ落ちる涙をハンカチで受け止めながら、僕はそっとスイッチに触れてみることにした。スイッチに触れたくらいでは何も起きないと、信じ込んでいた僕は、突然スイッチがピカーと光り、軍艦行進曲が流れ出すのを呆然と目撃していた。そうするとスイッチからおめでとうございます!というアナウンスのような声が流れ出し、このスイッチを押した人は異世界に転生して、勇者になることができますなどと言い、そこに大きな穴が開いて、そこに飛び込むように指示した。忙しいのに、なにを言ってるのだ。僕はやっと涙腺から滴り落ちる涙を拭いきって、そのスイッチの電源を切った。爆弾などではなくてよかった。

ああ、明日も仕事だ。よく思い出せない夢の続きを見よう。僕は再びベットに戻り、布団をかぶってエアコンのスイッチと電気を消して眠りについた。

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