第16話 苦手なんてもんじゃないさ。

「犯人は同じだと考えられているが時刻や場所を考えると、複数犯の犯行との見方も浮上している。標識をへし折る犯人が何人もいても困るがな」

「それはつまり、この通り魔は予想通り、黒騎士って事で間違いないのか」

「僕はそう考えている。黒騎士が夜な夜な人を襲っているとね」

 夜な夜な襲う黒騎士、それは都市伝説やホラー映画の類にしてはいささか陳腐な内容だが、こうやって事件となると呑気に冗談も言っていられない。

「けど疲労回復中は活動しないんじゃなかったのか」

 昂我は昨日の浅蔵達との会話を思い出す。

「所詮推測だ。血を求めることで体力を回復する化物は幾らでもいるしな」

「ということは、黒騎士も体力の回復をするために地味に活動してるってことか……」

「血液には魔術的な要素があり、人外の者には主食としてよく好まれている。その線もゼロではないって程度さ」

「嫌な話だ。吸血鬼ってことか」

「吸血鬼ならこの程度の被害では済まないだろうがな」

 浅蔵は笑いながら、引き続き周囲をダイヤモンド・サーチャーで探っている。

「他にも何か分かるか?」

「ダイヤモンド・サーチャーの《全知の視界》は今の状況分析以外にも、蓄積したデータにより、『起こった過去』と『起こりうる未来』を見せてくれる」

 浅蔵は遠くを見つめながら辺りを見渡す。

 ここで黒騎士が何をしたのか、現場の状況からダイヤモンド・サーチャーの瞳を通して、過去を確認しているのだろう。このとき浅蔵が独り言のように呟いた。

「この視界で成り上がったのか……」

「どうかしたのか?」

「すまない、聞こえたか」

 浅蔵はこちらを見ずに言葉を続ける。

「こうやって《全知の視界》を扱うと分かるが、父親はダイヤモンド・サーチャーを駆使して医療を行っていたんだなと思ったんだ。精密な動作や病気の原因解明、それらを全てこの能力で行って、今の地位を築いた。何百年も眠っていた力を医療で使うのは素晴らしい事だとは思う。……思うが、父親は医療の知識はまるでない人なんだ。だからなんていうか、勉強で医師の立場を勝ち取った人達もいる中で、騎士鎧の力で全てかっさらったと思うとね……複雑な心境さ」

 皮肉たっぷりに浅蔵は吐き捨て、再び地面を触ったり、周囲の壁などを手探りで確認している。前日からどうも父親の話題になると、刺々しい口調になる。

「親父さんが苦手なんだな」

「苦手? 苦手なんてもんじゃないさ。あの男は自分の私利私欲の為なら、ダイヤモンド・サーチャーを失った今でも様々な手段や言葉を使って周囲を巻き込み実行する。しかも最終的に上手く行くからタチが悪い。正論が全てって男さ」

 私利私欲でも周囲を動かすカリスマ性と巧みな話術、能力を持っているのならば、よっぽど優秀な人物なのだろう。

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