終幕のエンドレスナイト -雪原の紅玉姫ー

ひなの ねね

いつかあの日

 人生捨てたもんじゃねえ――か。


 何時間私はこうしていただろう。

 私の背中には崩れた日本家屋があって、長い時間をかけて先ほどやっと燻っていた煙が自然鎮火した。立ち上がって見渡すとどの家も全焼し、瓦礫しか残っていない。

 見上げると雨も降りだしそうだ。

 私は濡れないけれど、目の前でずっと棒立ちの男の子は雨に濡れるだろう。

 けれど私はこの子に干渉する事は出来ない――ただ見守る事しか。

 彼の背中に触れると自身が幽霊のようにするりと通り抜けてしまう。

 私は今ここにいる理由を徐々に理解していた。

 記憶に次々と見知らぬ記憶が刻まれては消え、忘れ去られていく。それはまるで様々な夢を見ているようで、どれが現実なのか分からない。

 これから先の未来を見る事もあれば、違う選択肢の未来もあり、また、誰かの過去を見る事もあった。私そのものは時間や空間を理解してはいない。けれど今の私の状態が、時間や空間を超越している。だから今、私がいない時間と場所で起こっていることも理解できた。

 それでも私は何もできない。

 ここでも、この先の未来でも、私は手を出せないでいる。それが歯がゆい。

 この状況、今までの私ならただ塞ぎ込んで、逃げ道を探していただろう。

 けどこの胸の奥にある湧き上がる思いは、いつもの感情と違う。

 熱い。今すぐにでも動き出したい。行動を起こしたい。

 ――もしかしたら。

 私は一縷の望みを賭け、騎士鎧を展開する。

 左肩が深紅の閃光を放ち、私を取り囲む半透明の紅の鎧が生まれる。

 未来で行く手を阻まれている『あなた』にきっと届くはず。

 私は男の子に向けて、そっと手を伸ばした。

 彼に触れる事は出来ないけれど、私はそっと彼を抱いた。

 今は何もできないけれど、きっとこの『想い』が遠い未来のあなたに届きますように。

 時間は再び進む。

 私が彼の背中に寄り添って座っていたころ、地面が黒く染まりだし、雨が降り出してきた。

 丁度そのころ、遠くから歩いてくる人影が見えた。

 少年の視界に人影は入っているのに、少年は微動だにせず、雨に打たれたままだ。

 貴方はこれから、色々な事を知っていくのだろう。

 辛い事や楽しい事、泣きたい事もあるし、怒る時もあるだろう。

 それでも歩みを止めずに進んでいく。

 遠い未来で、いつか出会うために。

 歩んでくる人影を見て、私はほっと胸をなでおろした。


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