有限の紡ぎ手
つぐみ詩歌
プロローグ
朝のニュースに耳を傾けると、連日と同じ内容が流れ込んできた。
『続いてのニュースです。高瀬市で起こっている連続通り魔事件はこれまでに3人の 死傷者を出していますが、未だ犯人を特定できておらず――――』
私、瀬尾結華(せのおゆいか)の住む高瀬市では、今連続通り魔事件が街を賑わせている。警察の人たちがそこらじゅうを巡回し、子供たちは集団登校・集団下校、夜になるとそんなに田舎でもないのに街中は沈黙する。
「結華、あんたも気をつけなさいよ」
母親がキッチンから顔を覗かせながら言う。朝食の席につきながら適当に返事をして、今日の夜はどこの道を歩こうかと考えていた。
私の趣味は夜道の散歩で、それは通り魔事件が起こってからも変わっていない。両親が寝静まったのを確認してからこっそり出かけている。もちろんそれが危険な行為であることはわかっているが、やめる気もさらさらない。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい。早く帰ってくるのよ」
朝食を終え、身支度を整えて家を出る。3人目の被害者が出てからは明るい時間帯でも街中がどことなくピリピリしているように感じる。大人たちに見守られながら列を成して歩く小学生の集団を横目に、自転車で大学へ向かった。
「おはよう結華、あんた今日もまた散歩する気?」
着いて早々、クラスメイトの町田奈々(まちだなな)が怪訝そうな顔で問うてくる。
「おはよう。もちろん行きますよ」
「あんたさあ、そんなことしてると本当に次の被害者になっちゃうよ!?狙われて いるのは若い女性だっていうし!」
やや興奮気味に話す彼女をなだめながら席につく。しかし私には被害者にならない絶対的な自信があった。
「だから言っているじゃん、奈々」
教科書を出しながら、笑みを浮かべて言う。
「私が被害者になるとか、そんな『悲劇のヒロインになる』展開はありえないん だって」
その夜、いつものように親が眠っているのを確認して家を出る。
警察に見つかると面倒なので、なるべく巡回していなさそうな、細い路地を中心に選んで歩いてみる。時々パトカーの赤い光が見えると、物陰に隠れてやり過ごした。
これではまるで私が通り魔みたいだ。
長いこと歩いていたのだろう、高瀬市の外れにある大きな十字路に辿り着いた。この十字路を渡れば隣の畑中市に入る。深夜0時近い時間帯のこの場所は、車もほとんど通らず、ただくるくると信号だけが動いていた。
「今日は帰るか……」
そう呟いて、十字路の真ん中で振り返った時だった。
彼に初めて出逢ったのは。
「危ないじゃないか、あんな事件が起こっているっていうのに、女の子がこんな時間に1人で歩いていたら」
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