第24話 1.想われ人

 僕らの通う森ケ崎高校の学園祭、通称森際は11月の終わりに行われる。

 今年、僕らのクラスはバザーを行うことになっていた。


 基本、バザーで出品する商品は自分たちが不要になったも物や、自分で作成したオリジナルの物に限定されている。だが、出品をするといっても本当のガラクタではお話にならないのは言うまでもないだろう。


 森際の1週間前、クラスのみんなにどんなものが出品できるか、そのリストを提出させた。思った通りそのリストの中身は、欠けた茶碗、削りすぎた鉛筆、折れたほうきなど、これぞガラクタという物が埋め尽くされていた。中には使用済みエロ本、アダルトDVDなど論外と言わざるを得ない物まであった。


 正直、実行委員の僕と戸鞠真純は頭を抱えた。



 「ねぇ笹崎君、どうする? こんなんじゃお客さん買ってくれないわよ」

 「どうするったて、後1週間だぜ。もう一度みんなに呼びかけようよ。全部が駄目ってわけじゃないし、いいもん出してくれる人もいるんだし、ほら、絵とかさ、あと古着とかさあるじゃん」


「そうだけどぉ。でもねぇ、なんかこう目玉って言うかさ、ないのよねぇ。笹崎君は何出すの」


 正直、僕も大したもんは持ち備えてはいなかった。だから、もう着なくなったジャケットや、何となく持っていたあの伊達メガネくらいのもんだ。

 「なに出すのって、大したもんはないよ。着なくなったジャケットとかさ」

 「ふうぅん、ジャケットねぇ。それ私、予約しちゃおっかなぁ」


 彼女は小さい声で

 「笹崎君の物だったら何でもいいんだけどなぁ」


 「えっ」

 「あはは、なんでもなぁい」

 彼女は、少し頬を高揚させていた。

 「やっぱもう一度みんなに言ってみようよ」

 「そうね、最終通告ということで少しきつめに言わないとねぇ。笹崎君任せたよぉ」

 「なんだよ、俺かよ」


 「そうよ、頼りにしていますよ。旦那様」


  彼女は自分の言った言葉に照れながら

 「ねぇ笹崎君、水曜日に飾りつけの小物とか買いに行かない?」

 「水曜日? ああ、そうか水曜から授業なかったんだ」

 「そうよ、だからね、明日先生に許可取っていかない? 朝から」

 「朝から、どこまで行くんだよ」

 「ないしょ」


 彼女は、人差し指を立てその弾けそうな唇に軽く触れた。

 「内緒って、まーいいか。わかった、それじゃ明日先生に許可取らないとな」

 「やったー。それじゃ明日先生のとこ、私も行くね」

 「当たり前だ」

 その時頭の中で、恵美の姿がよぎった。何か恵美に後ろめたい感覚を残して


 次の日、僕はホームルームで出品する商品について、クラスのみんなに話をした。


 「バザーに出品する商品なんだけど、リストの中に欠けた茶碗や削りすぎた鉛筆なんてあるけど、こういうの出品しようと思っている人、もう時間もないけどもっと別な、正直売れそうなものにしてもらえないかな。あと、使用済みエロ本、アダルトDVD何ていうのもリストにあるけど、こう言う物は論外です。こちらとしては受け付けませんのでそのつもりで」


 少し声のトーンを下げて言ったつもりだが、どうも人前に出て話すのは本当に苦手だ。少し声が上ずったような気がした。僕が話し終わると、孝義が後ろの席から手を上げて


 「はいはい、エロ本、アダルトDVDだめなんですかぁ、笹崎さぁん。どれもこれも使用済みで処分に困っているんですけどぉ。まさか、ごみには出せんでしょぉ」

 するとクラスの男子から

 「なあんだ孝義、お前一人でそんなにため込んでいたのかよ」

 クラスのみんなが笑いだした。

 「まぁさかぁ、一人ではいくら若いからと言っても体力持ちませんよぉ。なぁ結城」

 「なっ何言ってんだ孝義」

 僕は顔から火が出るほど熱くなるのを感じた。


 「えー笹崎君そうなのぉ」

 戸鞠がなぜか興味深々という顔で僕の方を見ていた。


 「あ、いや、それよりバザーの方、よろしく頼みます。ではこれで解散します」

 僕が席に戻ると孝義は

 「あ、怒っちゃった。ごめんごめん」

 僕は孝義の方は向かず、無視をしていた。まだ顔のほてりが収まりきっていなかったから。

 「こらぁ、孝義君。ダメじゃない、笹崎君困ってたじゃん」

 戸鞠が僕と孝義の間に入って孝義をなじった。


 「それより笹崎君行こうよ」

 「あ、うん」

 彼女は半ば強引に僕を連れ出そうとした。

 「おい、どこに行くんだ」

 「笹崎君をいじめるめるような人には教えなぁい。べぇー」

 戸鞠は孝義に邪魔されたくないかの様に、僕を担任のいる教務室へ連れ出した。


 彼女にちょっときつく言われ、孝義はしゅんとなった。その姿は幼いころの孝義を思い出すような表情だった。


 僕らは明日、飾りつけけなどに使う小物を買うため、外出する許可を担任の北城先生に話した。

 「あん、なにぃ、明日飾りつけの小物買うため外出したいだとぉ」

 「はいそうです。どうしても必要なんです。だから明日私たち役員で用意したいんです」

 戸鞠はここぞと言わんばかりに、先生に食い下がった。


 「戸鞠、お前一人で行くのか」

 彼女は先生の質問を聞くと、声を上ずりながら

 「さ、笹崎君もいっしょです」

 先生は僕の方を見たが、僕は先生と顔を合わせない様に少し斜め上を見ていた。


 「で、何時にどこまで行くんだ」

 戸鞠はしめたという表情で

 「渋谷です。渋谷に親戚がやっているお店があるんで、そこで安く用意してくれるって、もう連絡してるんで。ですから、あ、朝から行きたいなぁって」


 「はぁ、渋谷、それも朝からだとぉ」

 「だって先生、私の家からだと都心まですぐなんですよ。学校に来てからまた向かうとお昼過ぎちゃいます。それに、午前中に来てって言われてるんで」

 本当か嘘かは解らないが、彼女の強引さには脱帽する。


 先生はいつもの様に腕を組んでしばらく考えていた。

 「笹崎、お前は良いのか」

 「はい、森際の、クラスの事ですし、明日から授業もないですから」

 「ふんっ、分かったよ」


 そう言うと先生は、教頭のところに行き、事情を話した。ちらっと、教頭のメガネが僕ら二人を睨み付けたがそのあと、先生が僕ら二人を教頭のところに呼んだ。


 「森際の準備で買い物ですか?」


 その質問に戸鞠はつかさず返事をした。

 「仕方ありませんね。それじゃ、この外出許可書を提出してください」

 僕らはその用紙を受け取り、その場で必要項目を書き教頭に渡した。


 「うむ、いいでしょう。それと、くれぐれも気を付けてください。何か不祥事があった場合、貴方たちだけの問題ではなくなりますからね。それと、服装は制服厳守です。用事が済んだら速やかに必ず学校に来て、私と北城先生に報告をしてください。いいですね」


 戸鞠は、ほっと安心した表情で

 「はい、解りました。十分気を付けます。有難うございます」


 僕らは教頭の許可を取り教務室から出ようとした。その時北城先生は、「ふん」とした表情で、僕を見ていた。


 「あぁ、よかったぁ。まさか教頭先生まで話が行くとは思ってもみなかったけど」

 戸鞠は、さっきとはがらりと変わって、ルンルン気分で言っていた。


 「なぁ、戸鞠、本当にいいのか。渋谷まで行くなんて、本当は近くの町かと思っていたよ」

 「あれぇ、言ってなかったけ、渋谷って」

 彼女は、平然と言ってのけた。なんかこのシラの切り方は、頼斗さんに似ていると思った。


 「まぁ、いいけど、で、明日何時にいけばいい」

 戸鞠は、スマホでメモ帳を開いて

 「あ、あったあった。んーとね、笹崎君は8時45分の快速に乗って。そうそう、後ろから2両目の車両にね。」


 「何で後ろから2両目なんだよ」


 「いいの、えーと私のところには9時15分だから、私も後ろから2両目に乗るのぉ」

 「なあんだ、もうスケジュール出来てんのかよ」

 「うふふ、そうよ。明日楽しみだなぁ、明日宜しくね。良いものあるといいんだけどなぁ。私部活いかないと」


 彼女はテニス部に所属している。さすがに今日は休みは取れなかったらしい。ふと振り返り

 「笹崎君、遅刻しちゃだめだよぉ」

 そう言って、駆け足で部室へ向かった。


 「おーい、廊下は走っちゃだめだぞう」


 彼女は片手を振って「ハーイ」と応えた。

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