第14話 1.戻れない想い ◆昼下がりの午後

◆昼下がりの午後


次の日、僕は恵美と近くの総合病院へ向かった。


恵美は一人で行けるときかなかったが、ミリッツァは僕が付き添うようにと強く言った為、恵美もしぶしぶ了解した。とは言っても、二人が並んで大通りを歩いているところを、同じ学校の生徒に見られたら大変なことに成りかねない。


なにせ恵美は、男子生徒どもにとってマドンナ的存在なのだから……。


とりあえず、普段着ないジャケットにジーンズ、頭にはこれもまためったに被らないキャップを被り、何気なく持っていた伊達メガネを着けた。


「ユーキ何それ」

「何それって、やっぱ変かな?」

 恵美は少し間をおいて

「変ていうか別にユーキのその恰好嫌いじゃないわよ。意外、眼鏡に会うのね」

 面と向かって恵美から言われるとものすごく恥ずかしかった。


「さあ、行くよ」

「ねぇ、私病人なの、そんなに急かさないで」

「ハイハイ、重病人様」

「んもう!」

恵美は少しすねたように、頬を膨らませた。


外に出ると、明るい日差しが満ちていた、昨夜は本当に冷えたんだろう、その光には暖かさを感じるには程遠い力だった。


「寒い」

恵美は、まだおぼつかない足取りで歩きだした。

僕はその少し後から彼女を見守る様に、後をゆっくりと歩いた。


病院につくと恵美は受付をし、土曜休日外来の待合ロビーに向かった。

ロビーには十人くらいの人たちが診察を待っていた。

恵美は真ん中の列の椅子に座り、僕はその後ろの列の恵美の後ろの椅子に座った。


「あんまり話しかけないでよ」

「わかってるよ」


僕は、帽子を前に深くかぶり、足を組んで寝たふりをした。

30分くらい待っただろうか、ようやく恵美の名前が呼ばれた。


「三浦さん、三浦恵美さん」

看護師が、恵美の名を読み上げ

「はい、三浦恵美さん、2番の診察室へお入りください」


恵美は、看護師が告げた診察室へと向かい診察を受けた。しばらくして恵美は元の椅子に戻ってきた。

その顔を見ると目に涙をいっぱいに貯めて、今にもこぼれ落ちそうな顔をしていた。

「インフルエンザの検査だって、鼻に綿棒入れられて苦しかった。それと採血もされちゃった」


「そりゃ、仕方がないな我慢しな」

恵美はしゅんとして前の席に座った。しおらしい恵美は可愛い。

妹がいたらこんな感じなんだろうな。なんて勝手に想像してしまう自分がいた。でも実際は恵美の方が年上なんだけどな。


僕は、近くにあった雑誌を取り時間をやり過ごした。

再び、恵美の名前が呼ばれ彼女は診察室に入った、検査結果が出たんだろう。


10分くらいの後、恵美は診察室から出てきた。

「どうだった」

「ただの風邪だって、まだ熱高いからお薬飲んで寝てなさいって」

夕べからすれば大分楽にはなっているんだろうけど、大したことなくてよかった。


僕らは、処方された薬を薬局から受け取り家へ向かった。途中スポーツドリンクを一本恵美に渡し飲ませながら……。


家に戻ると恵美はリビングの椅子に座り、恥ずかしそうに。

「ありがとう、いっぱい迷惑かけちゃったね。何かお礼しなくちゃね」

「何言ってるんだ、同じ家に住む家族だろ、当たり前のことじゃないか」


口には出したもの、僕の心はものすごく痛く苦しかった。

どんな形にせよ、彼女に告白をしてフラれてしまった僕は、恵美への思いは捨てきれないでいたから。


未練がましいとでもなんとでも言ってくれ! 


「ありがとう、やっぱユーキって優しいね」

「それより、早く部屋で休みなよ、俺、店に行ってくるから」

「うん、わかった」


「あ、恵美」僕は恵美を呼び止めた。

「なあに、ユーキ」恵美は、髪をなびかせ振り返り、僕を見た。


僕は恵美から顔をそらし、スマホを恵美の方に向けた

「えっとあのさ、ラインとかって登録しない?」

「えっ?」

「昨夜のような事、またあるといけないから」

「そっかぁ、ユーキとはまだだったもんね。いいよ。」


恵美はカバンからスマホを取り出し


「でも私……その、ライン? ていうの。入れていないんだけど」

「へっ!」意外なことを言われてちょっと焦った。

「な、なによ! 別にいいじゃない。私あんまり友達いないし……あんまし……ていうか。別に必要じゃなかったし」


今はアプリのインストるとかは、止めといたほうが無難だろう。


「じゃ、電話番号言うから僕に電話かけて」

「うん解った」

「090-xxxx-xxxx」 恵美から僕のスマホに電話が来た。

「来たよ」

そう言いって僕はその着信番号を、すでに作成済みの住所録に登録した。


「ありがとう」

「うんん、メアドは後でおくるわ」

そう言うと恵美は2階の自分の部屋へと行った。


僕は恵美の診察結果を告げに店に向かった。

もうお昼を過ぎていた時間、この時間なら店の入口がら行った方がいい。

あのウッドドアを押すと、カウベルがカランカランと鳴り響いた。


ランチの混雑が過ぎ、店内の静かな曲が耳をかすめていく。


「よう、笹崎」

聞き覚えのある声で僕を呼んだのは、担任の北城先生だった。

「どうしたんですか先生」

「あん、俺がここに居ちゃ何かあるのかよ、俺はここのカヌレのファンだと言っただろ」

「いや、てっきり家庭訪問かと」

「笹崎、お前が望むならそれでもいいぞ」


「先生、あんまり結城を虐めないでください、私たちの大事な家族なんですから」

ミリッツァは僕に恵美の様子を伺った。


「ただの風邪だそうです。熱がちょっと高いので薬飲んで寝ててくださいとのことでした」

「そう、よかったわ恵美は?」

「多分、部屋で休んでると思います」

「そうか、ま、一安心だな」

「もしかして先生、恵美のこと心配で来てたんですか?」

「ま、まぁな、俺はあいつの部活の顧問だしな。あんな電話もらうとな、普通心配するだろ」

ちょっと照れ臭そうに言い放った。


そして先生は思い立ったように。

「あ、そうだミリッツァさん。カヌレを二つ持ち帰りにしてもらえませんか」


ミリッツァはその注文を受けると、少し寂しげに

「そうかぁ、今日だったわね」

と言って、カヌレを箱に2つ入れ綺麗にラッピングを施して先生に渡した。


「先生、この分はいいわよ。家からの気持ち」

「すみませんミリッツァさん」


「今日、行ってくるのね」

「ええ、これから向かおうかと」


先生は、ふと僕を見ると

「あの、お願いついでにもう一つ。急で済みませんが此奴、笹崎をお借りしても良いでしょうか?」


ミリッツァさんは返事をためらったが

「一緒に連れていくの?」

「ええ、多分」


「そう、わかったわ、先生にお任せします」

「結城、あなたは大丈夫?」

「ええ、この後特別予定はないですけど」


事の成り行きを黙って訊いていた政樹さんは、何も言わずただうなずいた。


「よし、笹崎行くか」

「先生、安全運転でね」

「大丈夫ですよミリッツァさん、大事な生徒を乗せるんですから」

こうして僕は急遽、行先も告げられずに先生の車に乗り移動した。


僕らが店を出た後、ミリッツァさんは

「行かせて良かったのかしら」


「さあな、その答えを出すのは結城次第だろ、恵美とこれからも付き合う上でな」


彼は、ミリッツァの肩に手をやり、そう呟いた……。


僕の知らない。秘密がもうすぐそこまで……。

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