第6話
休日前のクラスは好きだ。皆が何となくそわそわしてる。教室内ではこれから休みだと言う楽しい予感に浮き立って誰もが幸福そうに顔を輝かせている。友達との約束、カラオケの計画、例えバイトの予定であっても。俺もそんな明るい雰囲気を心から楽しんでいた。
曜、と聖司がノートを持ってやって来た。数学の宿題用に貸してやった物だ。俺にノートを渡しながら嬉しそうだね、彼は笑った。
そうか?と俺はできるだけそっけなく言った。つい笑みがこぼれそうになるのをこらえながら。さくらと初めて一緒に行く遊園地。
「きっと楽しいよ」
何が、と尋ねた。聖司は完璧すぎる笑顔で答える。
「遊園地に行くんだろ」
俺は思わず聖司を見上げた。聖人君子の微笑み。知ってたのか。なのに何で。笑ってられるんだよ。聖司はいつもそうだ。俺がさくらと、どこでどう過ごそうが嬉しそうな顔をする。良かったね、なんて空気を含ませて。最初は負け惜しみかと思っていた。さくらが俺を呼ぶ時は「曜」で、聖司は「聖司君」だと言う事や、祝日がある時は俺が聖司より先に予定を作ってさくらと一緒に過ごすという事や、その他もろもろのささやかな優越感がこいつの笑顔の前で全て崩れ去ってゆく。
俺が思わず睨みつけると、聖司は困った顔をした。
「怒るなよ。聞いたんだよ、僕が」
彼が、ぼくが、の部分をわざとゆっくりと言ったのは俺でも分かった。誰をかばっているのかも。またこの感覚だ。頭では分かっているのに、胸の奥がざわり、とする。聖司は構わず話し続ける。とても楽しそうに。
「で、実は欲しいグッズがあって。買ってきて欲しいんだけど__」
さくらに頼めよ、と言いかけて俺は口をつぐんだ。俺に、遠慮しているのか。俺がさくらと出かけるのに。お前じゃないのに。
やっぱり駄目か、と彼は苦笑した。
「曜、わかったよ、もう聞かないから」
何で笑ってられるんだよ。俺は、聖司、
おまえのこともわからない。
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