第6話 ドーアを作ろう!
「むこうの世界に帰るには、まずこの世界の人達の協力がなくてはね」
美香は上畑に、怪物じゃないこと、くれぐれも捕まえたり攻撃しないことを言い聞かせてから、その場にダダを呼んだ。上畑は飛んできて美香の肩に止まったダダを見て目を
「うわ……ちいせえ天使だ!すげえ」
「ダダ、この人に念話の魔道具を使ってくれる?上畑さん、手のひらを見せて」
ダダが、美香の肩から上畑の手に念話の魔道具を投げて、黒子のように固定する。最近は機会も多いので、すっかり念話の魔道具を使うのが手慣れてきたダダだった。
「わ、わわ、
「美香、魔王はオーガだったのですか?」
「わわっ、天使が喋った」
それからゆっくり時間をかけて、混乱している上畑が落ち着けるよう、この世界の事、美香の仲間の事など、色々話して聞かせた。途中でガットとズーラを呼んで紹介するのも忘れずに。
リザードマンが化け物ではなく人類だという事。そして魔物と呼ばれるものがいて、魔法がある事。
試しに魔道具で水を出してみせたり、ズーラの手の中で小さな炎を出してみたり。
その一つ一つに上畑は驚き、感心し、また驚いた。
やがて一通り説明して、ダダとガットとズーラにも慣れたところで、ここからむこうの世界に帰る方法も伝えた。美香が持っているドーアの鍵についてを。
「いくつか向こうに繋がっているドーアがあるのよ。そしてここにも鍵が落ちていたから、きっとこの近くにドーアがあると思うの」
けれどその一帯には鍵を開けるような扉は1つも見当たらない。
そこで美香は考えたのだ。ドーアがなければ、作ればいいじゃない!それもトラックが通るような、特大のドーアを!
推測にすぎないが今まで聞いた話を総合すると、落ちている鍵とその近くにある扉が組み合わさることによって、その扉がドーアになるのではないか。まだどの扉とも組み合わさっていない鍵があれば、扉を作れば新たなドーアができるのではないか。
「そう思うの。だから絶対成功するとは限らない。でも……作ってみない?トラックも通れる特大のドーアを」
上畑にしたら、どのみち夢物語の様な異世界の事だ。理屈など分かるはずもないし、出来るかできないかと考えるヒントすらない。
ただ、身一つならいつでも帰れるといわれた安心感と、もしかしたらトラックごと無事帰れるかもしれないという期待。それが自然と彼の日に焼けた赤い顔をほころばせていた。
「やってみましょうね!せっかくだから、みんなにも事情を話して協力してもらうといいわ!」
そう言うと、すっくと立ちあがって林の方に向かって叫んだ。
「ギルドマスターさーん!お願いがあるのでこっちに来てー!」
林に隠れて固唾をのんで見守っていた人達のうちおよそ半数は冒険者。指揮をしていたのはギルドマスターであるリザードマンのジーグだった。ジーグは美香の呼びかけにやってきた。
林の中に多くの人達が潜むのに気付いて、動揺する上畑。
「だ、大丈夫なのか、高梨さん」
「大丈夫よ。冒険者ギルドのマスターで、とっても親切な方なの。ギルドマスター、お願いがあるのだけど」
「……何だろうか美香」
「魔王が向こうに帰るためのドーアを作ってほしいの」
あまり無茶は言わないでほしいなという様子のギルドマスターを気にした風もなく、美香はトラックが通れる巨大なドーアの作成をお願いした。
奇抜すぎる依頼に呆れながらも、命を懸けて魔王と戦う当初の予定よりは随分ましだ。軍の指揮官も呼んで、対魔王防衛隊として招集していた者たちに新たな任務を課すことにした。
作るのは巨大な門。
場所はこのレジャーシートの上。
材料は側の林から。
扉と言っても、美香が使っているフェンスのドーアを考えれば、さほどしっかりした作りでなくても大丈夫だろう。
まずは林から切り出した二本のまっすぐな木を、レジャーシートを敷いていたあたりにトラックが通る幅で地面に埋める。
次に細い枝や
作業しているメンバーのうち三分の一くらいは、この手の作業には慣れているらしい。蔓で枝を編み込みながら、要所要所で魔法を使って、焼きを入れたり土で固めて固定したりして扉を組み立てていた。
残るメンバーは力仕事だ。林から素材になりそうな木の枝をどんどん運んでくる。
一人一人は小さくて非力だが、要所要所で上手に魔法を活用したり数人で協力したり。異世界の人達はみんな働き者だ。
美香もまた、上畑と一緒に力仕事にいそしんだ。
「隙間があってもいいんだ。大きさはあの……魔王でいいか、魔王より大きく作れ!」
「魔王じゃなくてトラックでいいけど……ま、いいか」
そんなこんなで、皆で作った扉が今、トラックの前に出来上がった。
背の高い丸太の門に、蔓草で編まれた枝のドア。蝶番はないが蔓草でくくりつけられていて、押せば開くスイングドアだ。
今は締まっているドアの真ん中に、木で簡易に作られた鍵が取り付けられた。そのカギ穴はただの丸い穴にすぎなかったが、美香は迷わず茶色のリボンのついた鍵を差し込んだ。
そして……
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