第4話 稲妻

「一匹ずつ釣り上げるのは……面倒だわ」


 美香のセリフに、一同も頷く。


「釣り方を指導して、冒険者に依頼を出すと言う手もあるが」


「引き上げるタイミングを間違えると、それなりの電撃を浴びそうよ。さっきピリッとしたもの」


「美香の毒霧は……」


「どうしようもなければ使おうかしら。でもきっと食べられなくなるわね。いえ、良いのよ。食べるのが第一目的じゃないから。でもせっかくだから、ね!」



 必至に言い募る美香に生暖かい視線が注がれる。


「後は、何が残ってるかしら……」


「魔道具は冷凍の反対で、温めるのが残ってるよ。でもこれ、熱湯になるほどじゃなくてお風呂を沸かしたり部屋を暖めたりするためのだから」


「風呂に入れたくらいじゃあ、死にそうにないわね。でも試してみましょう」


「先ほどは冷凍の魔道具でいくらか動きが鈍りましたよ。花の冷凍魔法はどうです?」


「動きが鈍れば、最初に使った罠や釣りも、いくらか楽になるかしら」


 逆に食いつきが悪くなる心配もあるが。

 美香の道具の残りは、ゴム長靴とゴム手袋。これは川に入っていくスタイルだ。美香らしい。

 前回も活躍した魚釣り用の丈夫な網も、もちろん持ってきた。

 そして着替えも。

(川に入る気満々だ)

 さすがに今のまま川に入るのは危険だが、弱っていれば、美香なら戦えるかもしれない。


 その他に使えそうなのは、ダダの持っている弓矢。これはイールの回収が困難なので候補の一つに挙げておくだけ。

 ガットはナイフを投げるのも得意なので、どうしても近付けない時にはダダの弓矢と一緒に。

 ズーラは魔法使いなので、一通りの魔法は使える。最近収入で良い杖を手に入れたので、威力はかなり上がっている。

 魔道具も冷凍があとふたつ、温める方もふたつあるので、併用すればかなり増強できるかもしれない。




 休憩しつつ相談すること15分。2回戦の始まりだ。

 まずは花とズーラの二人で岸に近い水面に冷凍の魔法をかける。

 水面は凍るほどではなかったが、いくらか動きが鈍ったイール達に対して、美香が釣り糸を垂れた。


「本当は網を突っ込みたいんだけど」


「やめてくださいよ、美香。さすがに危険ですって!」


 先ほどと同じように、糸を徐々に水面に降ろしていくと、餌が水に着いたとたんに、やはり数匹のイールが反応した。

 勢いはいくらか鈍いかもしれない。

 そして一つの餌に二匹のイールが食いつき、どちらも肉を離さないまま釣り上げられた。

 陸に上がって暴れるイールは、ガットとズーラで止めをさす。美香は再び釣り糸を垂れた。

 こうして何度か釣り上げた結果、スーパーの買い物かご一杯分のイールが、あっという間に釣り上げられた。

 しかし入れ食い状態で単純作業なうえ、さらには当然だが川の中のイールは数が減った気配もない。


「……ちょっと方法変えてみましょうか」


 少し場所を変えて、温める方の魔道具とズーラの炎の魔法を重ね掛けしてみる。

 温度が上がった水面は、今まで以上にバチバチと雷を散らしながらイールが大暴れし始めた。これはもしかして茹でられているのかも?期待できる!


 ……と、水面を覗き込むこと30分。

 美香たちの目の前では、相変わらず元気にイール達が暴れている。

 少々水温が上がったくらいでバテる魔物ではなかったようだ。

 試しに石を投げ込んでみると、今まで以上に激しい雷がバチバチと音をたてて光っている。


 ふと、美香が首を傾げた。


「イールって水の中にいるけど、自分たちは感電しないわよね」


「雷に対して耐性があるのでしょう」


「ふうん……ねえ、あそこに雷の魔法を打ちこんだらどうなると思う?」


「効果ないのでは?」


「でも、静電気では平気な人間でも、落雷には耐えられないわよね」


 それでなくとも今、川の中は多くの電気が流れている。この上にさらに雷を落とせば……


「少し下がりましょうか。花ちゃん、おいで」


 美香が花を抱っこして、全員で土手の手前まで下がった。ズーラだけが一歩前へでて、キラキラ輝く魔石の付いた杖を構える。

 ギュッギュッ

 呪文と共に杖から放たれる一条の稲妻。その光は川を埋めるイールの群れの中心に間違いなく落ちた。


 ドオオオオオオオンッ!


 まさに、雷雨の中で目の前に雷が落ちてきたような轟音が響き、巻きあがる水と共に川の中央からいくつもの稲妻が天に向けて放電された。

 爆風と放電で背後の土手に叩きつけられた美香と仲間達。幸い誰も大きな怪我はないようだが、まだ少し痺れる身体をさすりながら、辺り一面に散ったイールの残骸を呆然と見つめた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る