第4話 雪だるまの少女

「これ……人にみえるけど魔物なの?」


 唖然としてつぶやく美香の問いかけに、誰も答えられない。

 その少女は、人によく似た顔かたちだったが、身体はびっしりと灰色の毛でおおわれて、髪もまた同じ灰色の毛が少し長くたてがみの様に背中に繋がっていた。


 丸い耳が頭の上にちょんとついていて、耳の周りは柔らかい毛でおおわれている。胸から腰にかけては茶色がかった目の荒い布が巻かれていて、簡易のワンピースのようだった。


 美香の殺虫剤が雪の間からしみこんで体についたらしく、息が荒い。


「ちょ、ちょっとこの子……ズーラ、一応治癒魔法かけてみてくれる?なんだか人類にしか見えないわ。逃げないように縛っておくから」


 そう言ってリュックの口を縛るための紐を抜きとると、少女の腕にぐるっと巻き付けて動きを封じた。


 ズーラが近寄って治癒魔法をかけると、やがて呼吸が落ち着いて少女は目を開いた。


「ギャウ、ガ、ギャウウ」


 叫び声をあげて激しく身をよじる少女。

 言葉はこのままでは通じなさそうだ。


 しかし見た目で判断してはいけないと思いつつも、魔物に見えない人間そっくりのその姿。ダダは念話の魔道具を取り出して使うことにした。

 少女の腕は手首まで毛におおわれていたが、手首から先は人の手に似て、しかし爪だけは長く鋭いものが生えている。


 爪で引っかかれないように気をつけながら、ダダが小さな黒い小石を、少女の手に落とすと、石は手のひらに吸い込まれ、そのままホクロになって定着した。

 そしてギャウギャウという少女の声は、翻訳されてみんなの頭に届いた。


「いやー!助けて、ママー、ママー!」


 悲痛な声で泣き叫ぶ少女は、きちんと言葉も意味が通じる。その内容はとても魔物には思えなかった。




 雪が降り続く戸外で、凍えながらずっと少女を泣かせている訳にもいかない。美香は暴れる少女に声を掛けながら抱きかかえた。少女は軽く、じたばたしても自分の子どもよりもまだ簡単に抱えられる。

 何となく、幼かった頃の長男良平を思い出しながら、そのまま鉱山の小屋まで降りていった。


 小屋を出発してからさほど遠くない位置で雪男に遭遇したので、帰り着くのは30分もかからなかった。

 小屋の中は暖房の魔道具が置かれていて、スイッチを入れるとすぐに暖かくなる。鉱山で働く人たちは夕方までここに帰ってこないことが多いので、今は小屋の中は誰もいないのは好都合だ。


「さて、あなたからお話を聞きたいんだけど……」


 泣き疲れてぐったりした少女に、優しく話し掛けた。


「本当は紐も解いてあげたいんだけど、暴れると困るから少し我慢していてね」


 優しく話しかけてはいるが、案外鬼畜である。

 とはいえ、ここで逃げられては元も子もない。

 ズーラが奥からタオルを持って来て、少女の身体についている水滴を拭きながら、慰めはじめた。

 ガットは静かに、暖かい飲み物を用意してくれている。

 そしてダダは身体が小さいので雪の中で体温が下がり過ぎたらしく、少女の横でぐったり。しばし暖房の前で体を休めることにした。




 最初は泣き叫んでこちらの言う事を聞こうとはしない少女だったが、暫くすると静かになった。ようやく諦めたのだろうか。

 そして、ぐずぐずと鼻をすすりながら少女が喋りはじめた内容は、美香のみならずダダ達すら驚愕する内容だった。


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