第4話 雑貨屋はズーラの友人

 そのまま美香の希望通り、雑貨屋へ向かう一行。

 今日はそういう日だ。後ろをついてくるガットの顔は冴えない。


 町の入り口の門からまっすぐに伸びる広い通りには大きな店が並んでいるが、今度はわき道に逸れて、ズーラに連れられて裏通りに入る。

 道をほんの一本だけ裏通りに入っただけで、そこは表通りとは全く違った様相だ。まるで活気に満ちた市場のような……と言えばいいのだろうか。狭い路地には乗り物は入ることは出来ず、大きさも姿かたちも様々な人々が思い思いに店を覗き込む。店先には商品が並べられ、店の主が声を張り上げている。


「表通りの大きな雑貨屋の方が商品は充実してるんだけど、私はこっちの方が好き」


 そう言いながら、ズーラが通りの少し先を指さす。


「ほら、あのお店のカップが可愛いの」


 食器類を扱っているその店もやはり、道に迫り出すように商品が広げられている。通路に立ったリザードマンの店主はズーラの知り合いらしく、こちらを見て「ギャッギャッ」と声を上げ、手を振っている。


 そういえば普段は翻訳魔法のおかげで、副音声のように頭に意味が伝わるこちらの世界の言葉。だがたまに翻訳してくれない「ギュー」だとか「ウォーン」などの声がある。訳せないのは特に意味もない言葉だからなのだろう。その、この世界独特の声が美香はわりと好きだ。


 近付くと店主は美香を見ながら話し掛けてきた。


「やあ、ズーラ、久しぶりだね。こちらが噂の……」


「美香よ。オーガだけれど、とても……とても普通の人よ。強いけど!」


 悩みながら美香を紹介してくれる。普段はダンジョンの奥深くなど、あまり人目に付かないところに現れるオーガだが、今回魔王対策で協力を求めるにあたって、近隣の住民には似顔絵付きで美香のことが周知されている。

 さらには依頼を受けた鉱山やアリジゴクの村での活躍もすでに知れ渡っている。

 街を歩いていても最初の時のように驚かれたり不安な目で見られることはなく、どちらかと言えば興味を持って遠巻きにされているようだ。


「そうか。初めまして、美香さん。ズーラがいつもお世話になっています。僕の店にようこそ」

 リザードマンの男性(……多分)は、はにかみながら(……多分?)美香に握手を求めた。


「殲滅の毒霧の皆さんにお会いできて光栄です」


「殲滅……今何か不穏な言葉が……」


「あ、美香、あっちです。このコップいいと思いませんか」


 肩にいたダダがバタバタと羽ばたき、向こうの棚へと飛んで行った。手に持って見せてくれた木彫りのコップには何かが描かれていて、確かに可愛い。

 不穏な言葉について追及するのは後にして、美香は店先の商品を吟味し始めた。

 ズーラは小さな声で、店主と仲良く話している。時々聞こえる、キュッという声が、なんだか分からないが微笑ましい。


 美香は小さな小さな、ドール用のような食器を珍しげに手に取ってみた。


「ああ、それは妖精族のティーセットですね。彼らはお茶会が好きですから」


 ダダがまた肩に戻ってきて教えてくれた。ティーセットはピンク色のガラス製で、両脇に取っ手がついている。ポットは同じ素材で、まあるい急須のような形だ。

 周りにある食器類もみな、サイズこそ様々だが、どこかで見たことがあるようなデザインだ。案外生活に密着したものというのは、同じような進化の道をたどるのかもしれない。もしくは以前に交流があったオーガたちの伝えたものかも。

 そんなことを取り留めもなく考えながら、異国情緒に溢れた色柄の食器をいくつも手にとっては眺めていた。



 しばらくその店で見てから、他の店も覗き、何軒か冷かして結局何も買わずに商店街を出た。

「もうすぐお昼ですね。今日は美香にも、こちらの食べ物に挑戦してもらおうと思っているのですが、構いませんか?」


「ええ、もちろんよ」


「ではその前に、ちょっとこちらに来てください」


 そう言うと、ダダが美香の肩から飛び立ち、道案内するように前を飛んでいく。

 一度、表の大通りに出て、冒険者ギルドの横の路地に入ると、そこは先ほどの商店街とは違って静かな住宅街になっていた。


 いくつかの角を曲がっていきついた先には、白い壁に赤いドアが可愛い、小さな家。

「この家は……」

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