第3話 オーガ

 数匹のイブリースに引っぱられるように闇が動き、美香たちに襲い掛かる。頭上を越え、脇をすり抜け一行を取り囲み、鉱道の出口はもう全く見えなかった。


「美香!どうにか出口までのイブリースを排除できませんか?」

「うーん……狭いから、動きにくいわ」


 近寄ってくる黒い悪魔を空いている左手で叩き落としながら美香が答えた。密集しすぎて、殺虫剤も使いにくい。

「ギャッ」

 ズーラが小さくうめいた。魔法使いであるズーラは一行の中でも魔力が多く、イブリースの標的になっているようだ。


「分かったわ。出口が難しいなら奥に入ればいいのよ。ズーラ、手を!ダダとガットも離れないでね」


 取り囲まれて黒い塊のようになっているズーラの手を握ると、グイッと引き寄せて左肩に抱きあげた。

 右手のレーキは狭くて動かせない。左手にはズーラを抱えている。そんな美香に鬱陶しい虫のようにたかってくるイブリース達。

 ガットとダダは短剣で果敢に応戦しながら体を寄せた。それを確認するとおもむろに、美香は「ふんっ」と鼻息も荒く左足を振り上げた。


「キ、キキキッ」

 耳障りな声を上げて足元にいた10匹以上のイブリースが跳ねのけられる。

 その振り上げた左足を、今度は前方のイブリースがかたまって飛んでいる辺りに振り下ろす。

「キーーッキキッ」

 数匹が地面に叩きつけられ、2匹が踏み潰された。

 さらに今度は右足を振り上げる。


 そう。美香は洞窟の奥に向かって歩き出したのだった。思いっきり力強く。

 一歩進むごとに、10匹が弾き飛ばされ、数匹が踏み潰される。一歩、また一歩。


 まさに荒ぶるオーガのようなその歩みに、少しずつ数を減らす足元のイブリース。

 その勢いに乗じてダダが羽ばたき、美香の上半身に群がっているのを一匹、また一匹と切り落とした。ガットもまた後方から襲ってくるのを切り捨てながら、遅れないように美香の後ろをついて行く。


 やがて徐々に天井は高くなり、ついにはレーキを振り回せる場所にたどり着いた。

「ちょっとだけ、三人でここにいてもらえる?」

 ズーラを肩から降ろし、左手で顔の周りのイブリースを振り払いながら美香が聞いた。

「分かりました」

「はい」

「大丈夫だ」


 三人の返事を聞き、にっこり笑うと「じゃ、行ってくるわね」とレーキを両手で握った。

「はあああああああ!たあっ!!!」

 異世界で初めて、腹の底から声を出して気合を入れると、レーキを大きく振りかぶり、勢いをつけて斜めに振り下ろした。レーキの先がガシャンと音をたてて地面に当たる。跳ね返るレーキの先でまた数体のイブリースは吹っ飛ばされ、一気に空間が広がった。

 そのまま左右にレーキを振り回しながら、四人一緒に鉱山の中にあるその広場の端まで、進んでいった。


 デコボコの壁の大き目な窪みに着くと背中を壁に当ててうるさいイブリースを追い払いながらズーラに目をやる。

「大丈夫?」

「はい。かなり魔力を吸われましたが、まだまだいけます」

「そう。なら良かった。でもしばらくここで、待っていて頂戴。ガットもダダも、一緒にズーラを守ってあげて」

「ああ、大丈夫だ」

「美香はどうするのですか?」


「私?ふふ。ここは十分に広いから。ウルサイ悪魔たちの数を減らしてくるわ。ちょっとだけ待っててね」


 レーキを再び右手に持ち、左手はポケットから殺虫剤を取り出す。


「さあ、反撃開始よ!」


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