第4話 ダンジョンを走る
次の週から、火曜と土曜は朝礼を待たずに第4倉庫へと潜ることになった美香。初日は隆行と共に入り、ギルドに登録することになった。
いつものように台車とレーキと殺虫剤を持って倉庫へと向かう。そして美香が持っている緑のリボンの鍵で倉庫を開けた。
入り口から少し奥に入った、コインや小さな道具などの商品が置かれている場所に台車と掃除道具を置いて、レーキと殺虫剤を持って今日はもっと洞窟の奥へと隆行と二人で向かう。
洞窟の突き当りは上に向かう階段になっていて、ちょうど上から降りてきた鳥人間のダダと出会った。
「美香、連絡を貰ったので迎えに来ましたが、そっちのオー……おかたは何者です?」
「おお、お前さん鳥族の冒険者か。わしはほれ、冒険者のタッキーじゃよ」
隆行が首から下げたドックタグのような黒いカードを見せる。
「こ……これは!S級冒険者のタグ……いや、黒に赤い文字!SS級冒険者のタグか!オーガでありながら人語を解し冒険者登録されたうえ、あまりの実力にS級では足りぬとSS級を与えられた冒険者……」
「わしも最近はギルドには顔を出しとらんからの。若いのには顔を知られてなかろう?オーガのタッキーじゃ。よろしくな」
感激したように小さな手を伸ばして隆行と握手するダダ。美香はその光景を微笑ましいな、と思いつつ、後ろから近寄ってきた黒い悪魔に振り向きざまに殺虫剤を浴びせかけた。
「さすが美香。相変わらずの攻撃力ですね。しかもまさか伝説のSS級冒険者と知り合いとは!」
つい先日知り合ったばかりだが。
「ところでオーガって何でしょう?」
「ああ、美香さんは知らなかったんじゃな。ここじゃあ人間は言葉が通じない上にいきなり魔物や人類の区別なく襲い掛かるから、魔物の一種として扱われておるんじゃよ。わしや美香さんは、オーガと呼ばれておるな」
「はあ。……分かりました」
小さく首を傾げながら返事をする美香。
オーガ……ね。
そしてダダの後ろから降りてきた
階段は上の階と繋がる自然にできた竪穴に、人が移動しやすいように岩を刻んだもので、平均的な身長のガットやズーラが上り下りしやすい間隔だ。美香や隆行にとっては階段というよりも簡易なロッククライミングである。
「だいじょうぶかの?」
「ええ、これくらいなら。隆行さんは大丈夫ですか?」
いくら元気とは言え、87歳の老人である。だがなんでもない風に、美香よりもひょいひょいと身軽に上っていく隆行に、美香は心配するのもばからしくなり、いつしか二人で競争するように駆け足で上へ上へと上っていった。
途中で出会うもの全てに殺虫剤を振りかけようとする美香に、後ろから息を切らしながら追いかけてくるダダ達三人があわてて止める。
「あ、彼は妖精だから。人類なんです!」
「あら?虫かと思ったわ。ごめんなさいね」
途中、岩ばかりの洞窟ではなく木が生えていたり湖があったり、とても地底とは思えない光景が続いた。どこから照らされているのか分からないが、当たりはぼんやり明るい。
「あ、その木はトレントですっ。気をつけて!いがぐりを投げてきます」
「攻撃していいの?」
「魔物だから攻撃してください。顔を叩くと数日動かなくなるから」
「顔、ね!」
美香は時折飛んでくるいがぐりを避けながら無造作にレーキを振りかぶって、幹の途中にある大きなこぶのような顔に叩きつけた。
「ぎいいいい」
不気味な声を上げて、トレントは腕のような枝を振り上げたままの姿勢で動かなくなる。
「このまま放っていってもいいのかしら?」
「大丈夫です。トレントの実は美味しいので、時間があれば収穫するのですが今日は急ぎますので諦めましょう」
池のそばを歩いていると、長さ2mほどの太い蛇が近寄ってきた。よく見ればヒレが伸びたような手と人に似た顔がある。
すかさずレーキを振りかぶる美香に、また慌てて羽をばたつかせながらダダが止めにはいる。
「ああ、だめだ、彼女達は蛇族、人類だから」
「……まあ。噛まない?」
「噛まないです。お前たちも下がって。こちらのオーガは敵じゃないから。私たちはギルドの仕事でこのオーガを案内しているところです」
蛇族の冒険者の二人とあいさつを交わしてから、先に進んだ。
美香のここでの仕事はまず、様々な人類と魔物について覚えることからはじめる必要がありそうだ。
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