第4話 魔法のある世界
薄暗いというか、ぼんやり明るい洞窟の奥から、仲良く手を繋いで現れたトカゲ人間と二足歩行チワワと鳥人間。
そのあまりの可愛さに、さすがの動じない主婦、高梨美香38歳も思わず動きを止めて目を瞠ってしまった。
その隙をついて、トカゲ人間が「ギャッ、ギャッ」と小さな声で短く鳴く。
威嚇ではなく、こんな変な鳴き方をした時は、火の玉が飛んでくるなどの不思議現象が起こるので、美香は慌ててレーキを構えた。大抵の不思議現象は、レーキで打ち払えば消す事が出来る。しかし今回は、トカゲ人間から発せられた光が辺りを包み、そして反応する間もなくその光は美香に収束し、吸い込まれていったのだ。
美香は何事かと思い自分の体をぺたぺたと触ってみたが、特に変わったところもない。
「何だったのかな?」
前を見ると、手をつないだまま、トカゲ人間たちが膝をついて美香を見上げている。そして、鳥人間が口を開いた。
「オーガよ、私たちは攻撃の意思がありません。どうか話を聞いてください」
……
……
「……オウム?」
喋る鳥だった。
オウムにしては、ハッキリ分かりやすく喋っている。
「私の名前は、ダダです。今、私たちは困っています。どうか助けて欲しいのです、オーガ」
「なんだか話しかけられてるみたい。おうが?王牙……桜雅……Oh,God!?まさかオーガじゃないわよね?私の名前は美香だけど」
「美香!名前があるのですね。ネームドとは素晴らしい。どうか私たちを助けてください!」
「えっと……話せるんだ。鳥さん、すごいね。え、助けるって?」
会話ができることに多少の疑問を感じつつも、敵意が無さそうな3人に、美香はその場にしゃがみ込んで、色々と聞くことにした。ちなみに三人が手を繋いで現れたのは、敵意がないことを表す方法の一つだそうだ。
鳥人間の名前はダダ。身長30センチほどでよくよく見れば人に似た姿をしている。大きな美しいオレンジ色の羽と金色に逆立った髪が遠目から見ると鳥っぽくみえたようだ。羽の色によく似たミニ丈のワンピースのようなものを着ているが男性。ダダはこの三人の、リーダー的な存在らしい。
二足歩行チワワは名前をガットと言う。身長はチワワにしては大き目で6、70センチだろうか。手足は毛深く、尻尾もあるが、かっちりとした皮鎧を着て腰に剣を佩いていて、体型もよく見れば人らしい。男性だが顔は可愛らしいチワワそのもので、とても可愛らしい。何度も重ねて言うが、可愛らしい。
トカゲ人間の名前はズーラ、女性だ。3人の中では一番背が高く、1mくらいある。黒っぽいシャツとスカートを着ているから分かりにくいが、トカゲがそのまま立ち上がったというよりも人間の体を1mに縮小した感じだ。髪の代わりに鱗に覆われた頭と太くてたくましい尻尾がトカゲっぽい。手足は部分的に鱗に覆われているが長く、器用そうな指も人に似ている。腰には美しい装飾の付いた木の棒を下げていて、何と魔法使いの杖らしい。
「魔法……そんなものが本当にあるのね」
最初にギャッギャッという声と共にかけられた魔法は、言葉を思念で受け取り、こちらからの言葉も思念で発することができるという、多民族が暮らすこの世界では必須の魔法のひとつだった。魔法の効果は長くは続かないが、同じ効果を持つ魔道具があると言い、ズーラは1つの小さな石を美香の手の上に置いた。普通の石に見えたそれはしかし、見ているうちに溶けて手の中に吸い込まれ、そのあとには一つの小さな黒子が残った。
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