もしかして異世界
第1話 賢者の予言 ~あちらの世界~
空の色がオレンジ色から黄色に変わりかけた冬の初め、世界は大災害の予感に慄いていた。賢者により、魔王の復活が予言されたのだ。
魔王とは、数年から十数年ごとにこの世界に現れる災厄の事である。魔王が現れる前兆として、まず世界中のあちらこちらで魔物の大発生が始まる。多くの国が魔物に蹂躙され疲弊した頃、どこからともなく現れる魔王が、魔物ごとその周囲を破壊しつくすのだ。山は崩れ、川はその流れを変える。付近の街を破壊しつくした後、また魔王はいずこへか姿を隠す。
魔王自体の被害はせいぜいひとつかふたつの国なのだが、被害は大きく、それよって滅びた国もある。
現在、すでに各地で、魔物の大発生がいくつも確認されている。
今回の魔王復活の予言で告げられた地に程近いサリチル国の首都アシドもまた、混乱を極めていた。縁を頼って遠くへ逃げるものも多い。最も、どこまで逃げれば魔王の恐怖から逃れられるのかは分からないが。
しかし魔王復活はまた、一つのチャンスでもあった。大量の魔物は金になるし、魔王を倒すという偉業はその冒険者に勇者の名を冠すだろう。
命をベットして大金を得ようとする冒険者たちが、逃げる市民とは反対にアシドへと流入した。アシドの冒険者ギルドは、冒険者の転入手続きで上を下への大騒ぎだ。
「ギルド長、A級冒険者の鳥族のダダが来ました」
「ああ、通してくれ」
妖精族のポルンの案内で、ダダが所長室に顔を出した。
「マスター、また何か面倒事ですかい?」
「そうでもないさ。ちょっとソコのダンジョンの60階層に行ってだな」
ほらほら、また面倒なこと言い始めたよ。
ダダはあきれ顔で丸椅子に座ってお茶に手を伸ばす。
コボルト、リザードマン、鳥族など、多くの種族が暮らすサリチル国は、各種族の性質に合った道具が充分に流通している、豊かな国だ。
種族間の見た目の差は大きいが、どの種族も二足歩行で器用な手を持ち、表情豊かで喋る事が出来る。何万年も前は魔物だ、動物だと罵り合い、争っていたのだが、今では互いに人族として認め合い、こうして一国の中で共存できるほどである。
この部屋にも、羽があり身長が30cmほどの鳥族や妖精族が、1mをこす他種族と話しやすいように、背もたれのない高い椅子が置かれている。
ダダが手にした湯飲みも、リザードマンであるギルド長の物と比べたらままごと道具のように小さくてかわいい。
「聞いてるか?ダダ」
「はいはい、聞いてますよ、マスター。どうせまたややこしい事を言うんでしょう」
「いや、そうでもないぞ。ちょっとあのダンジョンに行って、60階層のオーガをテイムしてきてくれたらいい」
「……それってあのボスの?」
「ああ」
「分かりました…………っっっって、言うと、思うかーーーー!」
荒くれ者の多い冒険者の中では比較的温厚なダダが、キレて湯呑を投げた。
窓が開いていたらそのままパタパタと飛んで行ったに違いない。
「無理ですって。この前報告したじゃないですか。あのオーガをテイムなんて」
「仕方がないだろう、賢者様が予言されたのだ。あのオーガこそが、魔王を封じる鍵となるだろうってな」
「バカ言ってんじゃないですよ。魔王とオーガと、どっちがおっかないんだか」
「まあまあ、魔王をテイムしてこいとは言わないから」
「あたりまえですよ!とは言ってもねえ。どうやってテイムするんです?」
A級と言えども所詮は平冒険者。ダダは、ギルド長の立てた作戦にブツブツ文句を言いつつも、従うしかないのだった。
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