パティシエでも魔王討伐できますか?

小麦猫

勇者は魔王の従属に、え?従属って何?

第1話(主人公視点)

ラノベの裏側に転生してくれる神様を前にして、めんどくさがりな俺はこう言った。


主人公「異世界での名前や職業?めんどくせ。適当で良いよ。」


俺はこの発言を後に後悔することとなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


転生したオッサンは少年になっていた。職業を確認する。


職業 パティシエ


はぁ?パティシエ?勇者だろ、普通。そうツコッミを入れながら、続きをみる。


名前 パティシエ


適当で良いつったけどこれはないな。職業名をそのまま名前っておかしいだろ。心の中でツッコむが、虚しくなるだけであった。仕方なく俺は続きに進む。


特殊能力 材料名が分かるスイーツを作製でき

     る。呪文を長くすればするほど美

     味しくなるよ。どこからでも出し

     て、相手を驚かせよう。


これが俺の能力?どこで使う宴会芸だよ。敵に喜ばれるだけだぞ。はは〜ん。もしかして、ビックサイズのスイーツを出せるパターンか。


試しに呪文とやらを唱えてみる。イメージしたのはショートケーキだ。何故か呪文は感覚的に理解していた。どうやら、この少年の元の記憶が俺にあるようだ。


パティシエ「じゅげむじゅげむ……ペケ☆ポン」


総時間一分にも及ぶ長い呪文を唱え終える。


俺の後ろポケットから本?のような禍々しいものが飛び出した。ぐるぐると回転する音とともに俺をどんどん興奮させる。


本から光が現れ、出てきたのは普通サイズのショートケーキだった。ここから、何度も俺は試したが、五、六個のショートケーキを作ったところで限界が来た。


これでどうやって異世界で俺つえーするんだよ。目の前に大きな壁が立ち塞がったように俺は絶望感に打ちひしがれた。もう家帰ろ。新たな俺の家に。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


パティシエ「ただいまー。お母さん。」


母「あら、今日は早いのね。いつもならもっと修行続けるのに。」


パティシエ「たまには早く帰ってきたいときもあるよ。」


母「あらそう。それより二年後の進路決めた?先生に早めに考えておけって言われてたよね。」


う〜んと俺の表情は暗くなる。この世界でも進路は大事なのか。元の記憶から知っていたが、触れたくないものだ。かつての俺は社会人になってからの就職活動が嫌で嫌でメチャクチャ勉強した。結果いい進路先に行けたけれど、いい進路だけを目指していた俺は入った後に後悔した経験がある。どんな学校かの確認をめんどくさがった俺のミスだが進路という言葉にいい思い出はない。けれど、元の記憶の心は元から決まっていた。言い出せなかっただけだった。


パティシエ「前から決めていたんだけどモザイク地方にある勇者学園はどうかな?それまで修行し続けるから。」


母「うん、良いよ。」


パティシエ「え!?もっと反対されると思ってた。あそこ寮生活だし。」


母「迷って変な決断したんなら反対する。でも、自分で決めたことなら必要ないよ。」


ストレートな言葉が心にくる。いつの世界も母は強い。俺の異世界での修行生活はここから始まった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


二年がたった。学園で勉強するのがめんどくさいと思った俺は学園生活で習う勉強過程を全て終わらしていた。これでテスト前にあたふたするというめんどくさいことにはならないはずだ。そして、力量の方では総魔力量が全然なかった俺はコントロールの鬼となった。これでクラスでの実力が下にはならない。失敗して笑われるのは一番対応がめんどくさいしな。


しかも、今では能力も赤子の手に取るよう操れる。相変わらず作れる量はさほど増えてないが、どこにでも短時間でお菓子を出せる。必殺技も考えた。


母「もう家を出るのね。連休になったら帰ってくるのよ。」


パティシエ「うん、一人前になってお母さんを楽させてあげるよ。」


母「嬉しいこと言うじゃない。パティシエのくせに。」


母は笑みを浮かべながら泣いていた。


パティシエ「行ってきます。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その後、俺は勇者学園に着いた。ここで俺は勇者になる試験を受けた。なぜかって?学食がただになるからだ。俺にとって食費代がなくなるのは大事だ。でないと連休の間にバイトすることになる。めんどくがりの俺はそれはどうしても避けたい門だった。


もうすぐ俺の番がやってくる。


面接の人「次No.356、入って。」


よし、行くか。試験内容は一対一で先生と真剣勝負。ほとんどの生徒は勝てないらしいが、今回は勝ちに来た。対策は万としてある。辛い長勝負なんてめんどくさい。早めに決着つけてやる。


相手は女剣士だった。良かった、俺と相性が良い。女性にこの手は使いたくないのだが。


女剣士「女性が相手だからって出し惜しみしないで。全力でかかってきていいから。」


仕方ない。全力を出すしかないか。相手も認めてるんだし。


パティシエ「後悔しても知りませんから。」


女剣士「望むところ。かかってきなさい、おチビちゃん。」


アナウンス「第一ステージ、スタートしてください。」


「「戦闘モード、起動オン」」


二人の服装がみるみる内に変化する。自分好みの魔術装備になった。


すぐさま、女剣士は呪文を唱える体制に入る。


え?呪文?と驚いたが想定の範囲内だ。危険なので対処はさせてもらう。


パティシエ「足元ー生クリームーペケ☆ポン」


女剣士は呪文を発動しようとしていたが、足元の生クリームに滑り、全然違う方向に飛んでいった。女剣士は焦る。


女剣士が弱みを見せた瞬間、俺の必殺技の準備をする。


パティシエ「パンツー生クリームーペケ☆ポン」


女剣士「ひ、ひひゃぁぁーー!!」


パンツが生クリームでびしょ濡れになり、とんでもない大きな悲鳴を上げる。


今がたたみかけどきだ。


パティシエ「ブラジャーー生クリームーペケ☆ポン」


女剣士「キャぁぁぁーー!!」


パティシエ「スボンー生クリームーペケ☆ポン」


パティシエ「服ー生クリームーペケ☆ポン」


女剣士「やめて、やめて。降参するからー。」


降参の言葉が出てきてバトルは終わる。女性を追い詰めるのはあまりやりたくないものだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


勇者の合格が通知が来た。パティシエ勇者、勇者D。それが俺に与えられた名前だった。


俺の上に四人もいるのか。主席のSを取るつもりで挑んだのだが、上には上がいるらしい。


学園生活が始まり、一ヶ月がたった。友達もできた。誰とも喋らない俺を見て気まずい顔をされるのは嫌だしな。知り合いじゃない人に教科書を借りに行くのもめんどくさい。


やっとこれから勉強しない、バイトもしない、怠惰な俺の異世界ライフが始まる。


……はずだった。


ある日、魔王学園から転校生がくるまではそう思っていたのに。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る