@karaokeoff0305

職場に、新しく独身の男性が入ってくると耳にしたのは

つい最近のことだった。


「有村さん知ってる?ウチの部署に新しく人が入ってくるんだって」


梨沙子ちゃんー私はその言葉を特に気にも留めず、受け流して答えていた。

(いちいち、こんな下らないことで騒ぐ女の気が知れぬ)

心の何処かでそう思っている部分があった。


「あ、また興味ナイって表情してるー。勿体ないよー、若いんだからさ。

人生楽しまなきゃ損、損!」


「良いよ別にどうでも。それより私は、部長に任せられたこの仕事、

今週中に終わらせないと下の階に左遷されるの。それどころじゃないんだから」



全て本当のことだった。上司からは、新しいプロジェクトを任されている。

下らないことに現を抜かして失敗なんてしたら、これからの人生どうなることやら。

が、どうも目の前の彼女は素っ気ないこの言葉だけでは後に退いてくれないようだ。


「イケメンかな?不細工かな?それとも普通かな?今まで何やってた人なんだろ?

バリバリの営業マンとかだったらカッコ良いよねーでもそんな人ウチに入って来ないか・・・

うーん」


(早く解放して欲しい)その想いだけを切に秘めながら、黙って彼女の話を聞いていた。


「賭けましょうよ。良い男が来るか、それともイマイチな人が来るか。

あったたら私を奢って下さい。駅前に出来たイタリアンのお店行ってみたいなぁ、なんて」


「だーかーらッ、それどころじゃないの、私は。部長に気に入られていつも悠々自適な

麻衣子さんと一緒にしないでくれる?」


「しかめ面ばかりしてちゃ人生つまんないですよー。後輩の高尾君みたいにもっと自由に生きなきゃ」


そう言って彼女が指差す方向には、髪の毛を茶色に染めた『高尾』と呼ばれる男が居た。

「よーし、今日も可愛い子ナンパしに行くぞ!」そう大声で叫び、ニコニコと楽しそうに笑っている。


「高尾君はホラ・・・ なんていうか、別じゃないの」


「まあ、ちょっとやりすぎな面もありますが―ああゆう方が人生楽しいですよ、絶対」


絶対、の部分に釘を刺して彼女は言った。

真面目過ぎるのは解っている。だが、これは生まれつきの性分なのだ。

今更不真面目な性格になれという方が難儀な話であろう。


「ということで、やっぱ賭けましょう梨沙子さん」


「・・・しょうがないわねぇ、今回一回きりよ。これで最後だからね」


こんな下らないことに身を割いてる暇はない。

と言いつつ、少し嬉しい気分になるのは何故だろう。


「はいはい、私は良い男に賭けます。梨沙子さんは?」


「イマイチな男。大体こんなしょぼい会社に素敵な男(ひと)が入ってくる訳ないじゃない」


さて、当たるのはどっちか。

(少しだけ楽しみね。)心の中でそう呟き、フッと笑みを浮かべながら、

再度業務の続きに取り掛かった。

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