番外編 機械と生身、見た目と中身


 改造人間サイボーグと聞けば、大抵の人は無機質な冷血漢を想像するんじゃないだろうか。少なくとも、あたしはそうだった。

 そんなイメージとは正反対に、温かく柔らかに笑う彼――アーヴィング・J・竜斗リュウト君のことを考えるようになったのは、つい最近のことだ。


「ねー佳音かのん。レギュラー落ちて悔しいのは分かるけど、そろそろ帰ろーよ」

「んー、ごめん。片付けあたしがやっとくからさ、先に帰っててよ」

「……りょーかい。気を落とすなってのも無理な話かもだけど、あんま根詰めんなよな」


 バレー部のレギュラーを外されてからも、あたしは1人で居残り練習を続けているのだが――そんな中でも、気づけば彼のことを考えていた。

 部活仲間にも心配されているが……今のあたしは、じっとしていられないんだ。今練習の手を止めたら、すぐに頭が彼で一杯になってしまう。


 その時。小柄なあたしの体躯に反して、不相応に実ったHカップの双丘が、しとどに汗ばんで上下に揺れていた。

 ……我ながら、プロポーションは悪くないと思う。146cmという、ちんちくりんでさえなければ。


 こんな体だから、小さい女や巨乳に興奮する変態しか寄ってこないのだ。挙句、身長を理由にレギュラーからも外される。あたしは昔から、そんな自分の体が嫌いだった。


 ――そんなあたしの自虐を止める為に、彼が自分の秘密を明かしたのが、つい先週のこと。そこであたしは初めて、「体」だけがその人の全てではないと知った。

 彼は人ですらないというのに、目一杯人らしい生き方を目指し続けている。ふて腐れていたあたしは、ただ背が低いだけの「人間」だというのに。


 以来あたしは、今までの自分を恥じるようになった。北欧ハーフの美男子である彼を、いけ好かないと忌避していたあたしは――今思えば、あたしが嫌っていた変態共と何も変わらなかったんだ。人を、見かけでしか決めていない。

 人間の体すら持たない彼にとっては、それが酷い贅沢に見えていたのだろう。中身は立派な「人間」である彼だからこそ、外面や背丈だけに囚われないでと……懸命にあたしを励ましていたのだ。


 最近は寝ても覚めても、そんな彼のことばかりを考えている。

 とにかく明日は休みだし、彼が働いているカフェに行って、一言謝ろう。あたしはそう決意を新たにして――渾身の一撃スパイクを、体育館の床に叩き込むのだった。


 ――だが、この頃のあたしはまだ、知らなかった。絶えず彼に想いを馳せる、この気持ちの正体を。

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