第22話 お説教
「それで? 魔力を暴走させた挙句、また講堂を半壊させた、と?? ティナ……私をそんなに怒らせたいんですか???」
「カ、カレンさん、ご、誤解です! べ、弁明、弁明させて、ひぅっ!?」
王立学校の豪奢な生徒会室内に紫電が飛び、私よりも背が低い薄蒼髪の少女を威圧しました。正直、逃げ出したくなるくらい怖いです。
ガクガクと震え、私の背中に隠れようとするティナを、灰銀髪が美しい狼族の少女――王立学校副生徒会長であり、兄様の妹でもあるカレンさんが睥睨しました。制帽に着けられた『翼と杖』の銀飾りが煌めきます。
「……被告に弁明の権利を認めたつもりはありません。今の貴女に認められているのは、素直に真実を報告すること。ただただそれだけです」
「うぅぅ……だ、だってぇ…………」
「言い訳も禁止です! これで何度目だと思っているんですか? まったく……学生時代のリディヤさんとシェリルさんじゃあるまいし」
以前、うちのメイド長のアンナが言っていました。
曰く――王立学校時代の姉様とシェリル・ウェインライト王女殿下は、学内で幾度となく激突し、その度に大破壊を引き起こしていた、と。
私は肩を竦め、薄蒼髪の少女に冷たく勧告。
「……ティナ、悪いのは全部貴女です。いい加減諦めて、カレンさんのお説教を一人でみっちりと受けてください」
「なっ!?!!! リ、リィネ! 今回の件は貴女にだって責任の一端が――」
「ありません。私を巻き込もうとしないでください」
「あ、ありますっ!」「ありません」
「「っ!!」」
至近距離で睨み合い、炎片と氷華をぶつけ合い――パンッ!
手の叩く音が響くや、全てが消失。
こ、これは、兄様の魔法介入……。
「「! ひぅっ」」
背筋に寒気が走り、恐る恐る二人で視線を向けると、カレンさんがそれはそれは美しく微笑んでいました。
リンスターの直感が深刻な危機を告げてきます。
こ、これは……これは、ま、まずいですっ!
即断し、逃げようとするも袖を掴まれ動けません。
「リ、リィネ! わ、わたし、あ、足が、足が……」
「テ、ティナ、離してくださいっ! 死ぬのは貴女だけで十分ですっ!!」
「し、死なば諸共ですっ!」
言い合う私達へ、カレンさんが極寒の視線を向けてきました。
次の瞬間、雷鎖によって逃走経路が遮断。
くっ! テ、ティナのせいで。ふ、不覚です……。
動揺を鎮める間もなく、王立学校副生徒会長が目を細めました。
「リィネ」
「は、はいっ」
自然と背筋が伸び、冷や汗が頬を伝っていきます。
何しろ――カレンさんは『あの』姉様と単独で模擬戦をこなせる程の猛者。
兄様にも新しい魔法をたくさん創ってもらっていて、今の私やティナでは逃走すら困難です。
嗚呼……せめて、購買にお茶菓子を買いに行っているエリーがいてくれたら、私が無罪であることを証言してくれるのにっ!
兄様がいらっしゃらない時は、とても大人な副生徒会長が制帽を被り直します。
「私は――『ティナが上級魔法の制御に失敗して、講堂の屋根を吹き飛ばした』と報告を受けました。もしかして、貴女も関わっているんですか?」
「カレンさん、それは誤解――」
「はい、そうですっ! 半分はリィネのせいなんですっ」
「っ! ……ティナ、貴女っ」
「真実です。あと、私の方が背も高いです。ほらっ!」
そう言うや薄蒼髪の少女は薄い胸を張りました。どう見ても、私の方が高いですし、胸だってあります。
腰の鞘を叩いて苛立ちを紛らわせ、冷たく告げます。
「どうやら、目が悪くなったみたいですね? 事実を認めないと、後々辛さが倍増しますよ??」
「そっくりそのまま、返してあげます」
「……ティナ」「……リィネ」
「「――ウフフ♪」」
笑い合い、臨戦態勢に移行します。
まったく、この子と来たらっ!
今日という今日は許して――ガチャリ、と重厚な入り口の木製扉が開きました
「お、お待たせしました。……え、えっと? カレン先生、この状況は??」
「おかえりなさい、エリー。丁度良い機です」
「ひゃん」「「!」」
紙袋を抱え生徒会室へ入って来た年上メイドの身体が、フワリと浮かび、そのまま雷鎖を避けて奥のソファーへと運ばれました。
兄様が多用される浮遊魔法!
他者に対する制御はとても難しいのに。カレンさん、また技量が上がって……。
驚嘆する私をティナに構わず、エリーへ質問が投げかけられます。
「素直に教えてください。今回の一件に、リィネは関わっていますか?」
「そ、それは、あのその……」
純白のリボンを着けた耳が隠れる程度のブロンド髪を揺らし、親友が目を瞬かせます。私は必死に目配せ。
そもそも、あれくらいで制御を乱すティナが問題なんですし、言わないでっ!
対して、薄蒼髪の少女も必死です。
「エリー! お願い。正直に――」
「ああ、言わずもがなですが、この事は今週末の家庭教師の際に、兄さんにも報告します。エリーが嘘をついたら、兄さんはきっと悲しむでしょうね? 『僕の天使がそんな……。きっと、家庭教師が悪いんだ』――」
「リィネ御嬢様に、身長のことを指摘されたティナ御嬢様が制御を乱されましたっ! そんなに変わらないのに、ですっ!!」
「「エリー!?!!!」」
「――……へぇ」
「「~~~~~ッッッ!!」」
親友の告発を受けた私とティナは悲鳴をあげ、数を増していく雷鎖を前にし、抱きしめ合いました。 カレンさんの双眸に全てを凍てつかせるであろう猛吹雪が吹き荒れています。
どうやら……先輩からのお説教は免れそうにありません。
そう言えば、何時もならこういう時に取りなして下さる、ティナの姉で、王立学校生徒会長のステラ様や、顔を見せに来る学校長はいったい何処へ?
「ティナ、リィネ、正座です」
「「……は、はい……」」
浮かんだ疑問はカレンさんの圧を受け霧散しました。
私達は、ガクリと肩を落とし、その場に大人しく正座します。
うぅ……冷たいし、痛いです。
どうか、エリーが紅茶を淹れてくれている間で、お説教が終わりますように!
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