第38話 決戦! 魔工都市!! その②

 建物と建物の間を跳躍しながら、アディソン侯爵の屋敷を僕等は目指していく。


「ちっ! 鬱陶しいっすねぇぇっ!!」


 空中から襲撃をかけてきた小型の骨竜に『雷神斧』を放ちながら、ギルが悪態を吐き、教会の敷地内へ着地した。

 骨竜も直撃受け地面へと落下。乾いた音がし、身体が砕けた。

 すぐさま灰にはならず、一部再生していくものの、喪われた翼はそのままだ。

 ……『蘇生』能力はそこまで強くない、と。

 教会の尖塔を掴みながら、僕は戦況を確認する。


「おっらぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 裂帛の気合を発し、ゾイが大回転。

 石壁ごと、数頭の骨竜の首と羽を大剣で切断した。

 直後、十数の雷柱が追撃。

 異形の怪物達を滅していく。

 ギルとゾイが背中を合わせ、斧槍と大剣を構え直し、不敵な笑み。

 空中で二人を囲んでいる十数頭の骨竜も、心なしかたじろいでいるようだ。

 僕の後輩達は若くして、『オルグレン』と『ゾルンホーヘェン』という、王国でも有数の武門の名に恥ずかしくない技量を既に得ているようだ。

 二人の成長に満足感を覚えていると――


「おっと?」

「! アレン先輩っ!!」「上ですっ!!」


 黒い影が教会全体を覆った。

 直上から、七つ首の巨大な骨竜が急降下してくる。

 身体のあちこちにも、頭、脚、羽の残骸が重なりあり醜悪な姿。多数の骨竜が合わさっているようだ。 

 ギルとゾイが切迫した警戒の叫びを発し、すぐさま屋根の上へ跳躍しようとするも、小型の骨竜達が次々と灰色の息吹を放ち邪魔をする。

 二人の瞳には強い焦り。

 あんまり後輩達をやきもきさせると、後の裁判が怖いな。

 僕は尖塔から手を離し、屋根を駆け始める。


『~~~~~!!!!!!!!!!!!』


 直後、七つの頭がつんざめく叫び。

 尖塔が粉砕され、教会本体にも罅が走っていく。

 体勢を立て直し、七つ首の骨竜と屋根の上で相対。

 怪物の口が大きく裂け、禍々しい魔力が集束していく。

 魔力を繋いでいない僕自身の手持ち魔法であれを真正面から防ぎ切るのは不可能。一撃で倒せる魔法もない。

 有利な点は――名も知らない魔杖が『信じて』と告げるかのように清冽な光を瞬かせた。

 ……ふむ。

 僕は魔杖を一回転させ、強く握りしめ――七つ首の骨竜へ突撃を開始した。

 

「アレン先輩っ! な、何をしているんすかっ!?」

「退いてくださいっ! ああっ! もうっ!! 邪魔だっ!!!!!!!」


 次々と襲い掛かる骨竜を薙ぎ払いながら、ギルとゾイが悲鳴をあげる。

 七つ首の怪物は魔力を集束。

 黒灰の息吹を僕目掛けて解き放った!


 同時に――純白の氷風が吹き荒ぶ。


 僕を守るように無数の氷華を煌めかせ、息吹を乱反射。

 屋根を石壁を、折れた尖塔を、教会の敷地外の建物を薙ぎ払うも、僕自身には掠りもしない。

 ……この魔杖、いったい? 

 アーサーにもう少し詳しく聞いておくべきだったな。

 七つ首の骨竜よりも、手に持つ名も無き長杖に戦慄を覚えながら――魔力を引き出す。宝珠が歓喜を示すかのように輝き、穂先を深蒼に染め上げていく。


「ギル、ゾイ!」

「「っ! り、了解っ!!」」


 後輩達の名前を見ずに叫び、突き進む。

 必殺の息吹を防がれた怪物は、再び魔力を集束。

 第二射を放たんとし――


『!?』


 瞳の無い眼孔の魔力が揺らめいた。

 七つの口は氷華によって凍結。

 それだけでなく、羽や脚、身体、強大な魔法障壁すらも凍って行く。


「これでっ!」


 僕は魔杖を両手持ちにし跳躍。

 無造作に七つ首を薙いだ。


 ――白蒼の閃光。


 斬撃は怪物の首を落とすだけでなく、射線上にあった尖塔と遥か遠方に見えていた時計塔すらも両断した。

 直後、首を喪った骨竜に無数の雷柱と風刃が降り注ぐ。ギルとゾイの魔法だ。

 僕は顔が引き攣るのを感じながらも、魔杖を大きく振った。

 氷風が残存の骨竜に襲い掛かり、浄化。

 問答無用で消失させていく。


「……はぁ」


 溜め息を吐きながら、地面へと降り立ち、後輩達に片目を瞑った。

 あえて――あえて、魔杖のことには触れない。


「有難う、ギル、ゾイ。助かったよ」

「…………アレン先輩」「ギル。待て。――……今更じゃねぇか?」


 次期オルグレン公爵が何とも言えない顔になって僕へ何をいいかけ、ゾルンホーヘェンの御令嬢に窘められた。

 すると、ギルは顎に手をやり首肯した。


「確かにそうっすね。アレン先輩が『とんでも』なのは昔からか……」

「……ギル?」

「だろ? あの化物を凍結させたのは自分の魔力じゃなくても、魔杖を完璧に制御してるのは、自称『一般人』の某先輩。……多分だけど、この魔杖、余程の魔法士じゃないと、全部自分に返って来る仕様だと思うしな」

「……ゾイ?」


 後輩達が僕を無視し勝手に納得していく。……大変、遺憾だ。

 僕が抗議しようとすると、


「おや?」

「「!」」


 上空で数発の閃光弾が炸裂した。

 意味は――『我、作戦行動を開始せり』。

 アーサー達も進撃中のようだ。

 僕は魔法生物の小鳥達から情報を受け取る。


「――都市の各地で交戦が始まった。既に禁忌魔法『故骨亡夢』も発動されているみたいだ。無数の骨兵が群れている。最終目的地のアディソン侯爵家屋敷内には、桁違いの魔力を持つ者が三名。離れた場所に一名。自称『賢者』と『竜』はいない。姿を隠しているんだろう」

「アレン先輩の感知に引っかからない相手、っすか。……勘弁してほしいっすね」

「前回、遭遇した使徒は二名。吸血鬼化したイゾルデ・タリトーを入れても、数が合いません。増援かと。アレン先輩、今みたいな突撃は止めて下さい。何度でも言います。それは私とギルの役割です」


 ゾイが殊更丁寧な口調で僕にお説教してきた。

 長身少女へ軽く謝意。


「有難う。まぁ――でもほら? 僕は君達の先輩だしね。先輩は後輩を守るものなんだよ」

「……いや、何時も、誰でも守ってないっすか?」「……王都へ戻ったら裁判開廷を提案します」

「気のせい、気のせいだよ。あと、裁判は勘弁してほしいな」

「「…………」」


 後輩達のジト目を受け流しながら、思考する。

 ――何にせよ、決戦場はアディソン侯爵家の屋敷、か。

 都市内に破壊音が響き、黒煙が上がっていく。

 僕は恐るべき魔杖を握り締め、後輩達を促した。


「さぁ、進撃を再開しよう。油断はせず、けれど大胆に」

「「はいっ! アレン先輩っ!!」」

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