第41話 自己紹介
「それで、そちらのお嬢さん達はアレンのお嫁さん候補かしら?」
「「「「!」」」」
「母さん、余計な事を言わないでっ! 面倒な状況なんだから」
「お義母様、嫁はここにいます」
「そうだったわね。リディヤちゃんとアレンはもう結婚」
「……母さん、帰って来なかったのは謝る、謝るから、からかわないでよ」
「ふふふ、冗談よ――何時も、アレンとカレンがお世話になっています。二人の母のエリンです。皆様のことは、二人からの手紙で知っています。ようこそ『森の都』へ。短い期間ですが、楽しんでいってくださいね」
そう言って、母さんは微笑みながら頭を下げた。相変わらずこうしてみると、カレンに似てるなぁ。それと、年齢不詳過ぎる。
取りあえず……さっきから僕の足を踏み抜こうとするのは止めよう、リディヤ。何をそんなにいきり立ってるのさ?
他の子達はまだ固まっている。やれやれ。
「母さん、紹介するね。まずはステラ様」
「ス、ステラ・ハワードです。この度はお招きいただきありがとうございます。アレン様には、本当にお世話になっています」
「貴女がステラ様ですか。ああ、なるほど――アレンが『何れ、王国内でも有名になると思う、美貌で』と書いていましたが、納得、むぐっ」
「……こほん。母さん、余計な事は言わないようにね?」
まったく油断も隙も無い。
リディヤ、我慢していた『火焔鳥』の羽が見え隠れしているよ?
――どうして、母さんの口を封じている僕の手を外そうとしているんだい? ティナ、リィネ。エリーまで……。
「ぷはっ。アレン、余計なこととはなんですっ。貴方が書いてきたことよ」
「そ、そうだけど……次は」
「大丈夫よ。リディヤちゃん、ちょっとその恥ずかしがり屋な息子をお願いね」
「はい、お義母様。さ、こっちへ来なさい」
「くっ……」
満面の笑みでリディヤが僕の右手を拘束し、自分の頭を腕にくっつける。
……カレン、待っておくれ。これは流石に不可抗力だろう?
「まずは――貴女がエリーさんかしら?」
「は、はいっ! あの、その、アレン先生は凄い人で、私なんか全然駄目だったんですけど、アレン先生のお陰で、学校も入れて、その、わぷっ」
「なんて……なんて可愛いのっ! アレン、ずるいわよっ! こんな可愛い子を教えてるなんてっ。アレンが手紙で『エリーは本当に可愛らしいです』と散々書いてた意味をようやく理解したわっ」
めきり、と骨が軋む音が……。
カレンの冷たい視線も突き刺さる。
エリーを解放した母さんが、ティナとリィネに向き直る。
小首を傾げた。「アレン先生、そっくりです……」そんなに似てるかい?
「お二人には敬語で」
「「娘とお思いくださいっ」」
「ありがと。貴女がリィネちゃんね」
「リィネ・リンスターと申します。兄様には、とても可愛がっていただいています。出来ればもっと可愛がってもらいたいです」
「ふふ、この子は恥ずかしがり屋だから。『リィネは最近、大人びてきたので、時々ドキリとします』って書いてあったわ」
「兄様――!」
リィネ、そんなに目を輝かせなくてもいいんだよ?
ほら、僕の右腕はそろそろ限界を――リディヤ。零距離での『火焔鳥』はちょっと洒落にならない。
「……兄さんは、節操がなさ過ぎます。私には、そういう事、言わないくせにっ」カレン、それ私怨じゃないかな?
「最後がティナちゃんかしら?」
「初めまして、ティナ・ハワードです。先生は――暗闇の中にいた私へ『路』を示して『光』をくれました。心から感謝しています。エリン様、先生を育ててくださって本当にありがとうございました」
「あらあら、ティナちゃん――大変だったのね。もう大丈夫。この子が貴女を導くわ」
「はいっ! それで、その」
「なーに?」
「……お、お義母様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「ふふふ~いいわよ。手紙に書いてあった通りね。『ティナは明るくいい子で、頭も良いです。けれど、根はとても真面目です。もう少し、人に甘える事を覚えるといいんですが』って」
「先生? 私のことをそんな風に?」
うぐっ……リ、リディヤ、噛み付くのは止めよう。甘噛みじゃないよ?
カレンも、どうして眼を紅くしてるんだい?
……取りあえずこれでお仕舞なら、まだ大丈夫。
おや? 腕からリディヤが離れた。
「お義母様、お願いがあるのですが」
「なーに?」
「手紙を読ませてもらってもよろしいですか?」
「リディヤちゃんの頼みでもそれは」
「お願いします。代わりに――これを」
「……ふふふ~流石よ、リディヤちゃん。アンナさんはお元気?」
「元気です。『今後ともよしなに』と言伝を預かっています」
「そう――うん、分かったわ。だけど、独り占めは駄目よ? みんなで読むこと」
「ありがとうございます。大好きです、お義母様」
「母さんっ!?」
理不尽な裁定が下された。
ま、マズい。これはマズい。基本的に、手紙内で僕はこの子達を絶賛している。
それはリディヤとカレンも同様。この二人にその内容が知られれば、明日以降、何を言っても無駄な事は目に見えている。
母さんだってその事は……これってやっぱりそういう。
「自業自得です。兄さんは、御自身がどれだけ大切な存在なのかを、これを機会に自覚なさってください。ところで、私はなんて書いてくださってるんですか? 楽しみです」
僕は今すぐ貝になりたいよ……。
――その後、二人を含め、他の子達を絶賛する内容が延々と読み上げられたのは言うまでもない。
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