ヴァレンタイン特別編 甘い一日 中

注意! 本編とはまったく関係ありません。あくまでも、特別編です(笑)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 フェリシアと別れた僕が次に向かったのは、王宮傍のカフェ。

 そこで待っていてくれていたのは――


「兄様!」


 近衛騎士の白を基調とした公式服を着ているリィネだった。

 すらりと背が伸び、大人びている。

 赤髪が輝き、生命力に溢れた表情。リディヤによく似ているけれど、リィネの方が柔らかい雰囲気。年齢は大人と少女の間くらいかな?

 まぁ……分かっていたことだけれど、とんでもなく可愛い。スタイルもちょっと目に毒な位。

 僕が立ち止まっていると、不思議そうな表情をしながら駆け寄って来た。


「どうされたんですか? 何か、心配事でも?」

「――大丈夫だよ。ありがと」

「に、兄様!? あの……」

「うん」

「わ、私にも立場があるので、その……人前で、頭を撫でるのは止めていただけると……」

「ごめんよ。ついね」

「あ……」


 自然に頭を撫でてしまっていた。

 いけない、いけない。夢の中とはいえ、嫌がる事をするのは駄目だよね。

 ……リィネ、どうしてそんな表情をするのかな?


「さ、食事にしようか。まだ食べていないんだよね?」

「は、はい。あ、でも――いえ、大丈夫です。さ、注文しましょう」

「うん? 誰か他にも来る」

「いいえ。誰も来ません。私と兄様だけ」

「……リーィーネー……」

「ちっ。早いですね」


 顔をしかめるリィネ。そして、見知った声。

 ……うん、どうやらこの関係性は変わってないみたいだ。

 駆けてきたのは、リィネと同じく近衛騎士の公式服を着ている、ティナだった。

 間違いなく美少女。背が随分伸びたなぁ。スタイルは――うん、まだ大丈夫さ。

 全力で駆けてきたのだろう。髪が乱れ、ぼさぼさになっている。


「はぁはぁはぁ……いい、度胸、ですね……あんな、トラップをしかけて行くなんて……」

「何を言ってるか分かりません。兄様の前で変な事を言うのは止めてもらえませんか?」

「なっ!? あ、貴女という人は、そうやって、何時も、何時も、いい子ぶってっ……!」

「ティナ」

「! せ、先生。あの、その、これは……」

「はい、そこに座ってください」

「え? は、はい」


 自分の鞄から、櫛を取り出し、乱れた髪を直していく。

 相変わらず綺麗な髪だ。

 一応、リィネに注意。


「リィネ。意地悪するのは駄目だよ?」

「……意地悪なんかしていません。むしろ、意地悪されています」

「嘘ですっ! 今日だって、先生と二人きりになろうとした癖にっ」

「……目の前で、兄様に髪を直される光景を見せつけられる方が余程です」

「あ、それはそうですね。ご、ごめんなさい」

「いえ。私もちょっとだけやり過ぎましたし」

「ティナとリィネは、仲良しですね」

「「仲良くなんかありませんっ!」」


 思わず笑ってしまう。

 ああ、良かった。どうやら、この子達は本当の意味で友達になれたみたいだ。  空いている片手でリィネを再度撫でる。


「……兄様」

「うん。ごめんよ。だけど、君達が愛おしくてね」

「「!」」

「さ、直りましたよ」

「あ、ありがとうございます……先生」

「何です?」

「どうして、リィネには何時もの口調で、私に対しては敬語なんですか? やっぱり怒っておられるんですか……?」

「そうですか?」

「それですっ! お願いですから、何時もの口調にしてください」


 ふむ……どうやら、この夢ではティナに対して敬語を止めているらしい。

 改めて、二人を見る。

 どういう経緯があって近衛騎士になっているかは分からないけど――似合っている。だけど、腕章には見覚えがない。鳥・薔薇・剣とはまた派手な……。


「兄様、どうかされましたか?」

「先生?」

「ああ、ごめんごめん。その腕章だけど」

「「?」」

「派手だなって」

「ああ……で、でも、姉様だって一生懸命考えられたんですよ?」

「そ、そうです! あんまり、そういう事を言われているとリディヤさんがまた拗ねられますっ! この前だって、大変だったんですから……。幾らシェリル様がお綺麗だからって、リディヤさんの目の前でお褒めになるなんて……!」

「あら? その時、一番拗ねていたのは貴女だったと思うけれど?」

「なっ!? そ、そんな事言ったら、お二人が踊られている光景を見て、歯軋りをしていたのは何処の誰ですかっ!」

「……へぇ。それを兄様の前で言うんですか?」

「……何ですか? もっと言ってあげましょうか?」


 あ~なるほど。どうやら、腕章はリディヤ作か。

 確かに、らしい図柄ではある。

 そして、どうやら近衛の別動隊? を率いてるのかな?

 ……随分とお会いしていない御方の名前も聞こえたけれど。しかも踊る? どういう状況なんだか。夢とはいえ、もう少し現実味がないと。

 まぁいいや。取りあえず、今にも抜剣しそうな二人へ浮遊魔法を発動、引き離し、椅子に座らせる。


「仲良しなんだから、すぐ喧嘩をするのは止めよう」

「「仲良しじゃないですっ」」

「はいはい。さ、料理を選んで、お昼にしよう。お腹減ったろう?」

「「……はい」」

「ああ、それと」

「「?」」

「――二人共、その服似合っているよ。どっからどう見ても、美人さんだね」

「はぅ」

「……ひ、人前でそういう事、言うのは……その、出来れば二人きりの時に言ってほしい……です……」


 リィネはテーブルに突っ伏し、身悶えている。

 ティナは顔を赤らめ、俯いてしまった。

 再び笑ってしまう。

 ああ、もう、この教え子達は本当に可愛いなぁ。

 僕が上機嫌に笑っていると、二人はほぼ同時に咳払い。

 そして、テーブルの上には小箱が二つ置かれた。どちらも、包装がお洒落。だけど、どことなく似てるし、多分、一緒に作ったのだろう。

 二人はまたしても睨み合っている。


「「私が先ですっ!」」

「同時にしときなよ――ありがと、嬉しい。二人で作ったのかな?」

「「!?」」

「分かるよ。これでも、二人の先生だからね」

「……兄様」

「……先生」

「うん? 何だい?」

「そこは、その、えっと……後は任せました……」

「なっ!? こ、このヘタレ女っ。こほん。そこは…………こ、こんな人前でい、言えるわけないでしょっ~!!」


 さっきよりも顔を真っ赤にしたティナが叫び声をあげる。

 店中の視線が集中。片手をふりつつ、軽く頭を下げる。鎮静化。

 やれやれ――


「感謝の証だよね? 分かってるから大丈夫だよ」

「……兄様は意地悪です」

「……違うわ、リィネ。先生――アレンはとっっても意地悪なのよ。昔からね」

「酷いなぁ。そんな事を言う子達には、こうだ!」


 ちょっと乱暴に頭を撫でる。

 二人は、びくっ、と身体を震わせジト目でこちらを見たものの、手は払いのけられることなく――意を決した勇気ある店員さんが、注文を聞きにくるまでその状態は続いたのだった。

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