異世界に転生したけど幸運はそのままだったようです(仮題)
音近
序章
第1話イデアーそして転生ー
どこまでも真っ白な景色が続く世界に、気が付けば俺は立っていた。
これは夢である。
そう結論づけたのはこの場所で目覚めてから間もなくのつい先刻。
しかしながらあまりにも意識がはっきりしていて、しっかりと思考できていることに内心焦りを覚えていたのも事実であり、何よりこの世界に来てから自分が今まで何をしていたのかが全く思い出せなかった。
そもそも夢の中でそのような思考に行き着くのもおかしいとは思っているが、だからと言って目の前に広がる世界が現実のものであるとは到底思えなかった。
ー純白ー
それ以外には何もなく、どこが果てなのか、自分がどこに立っているのかさえも認識出来ない世界。自分の立っている地面だけ宙に浮いていると言われても納得するしかない程白以外の色が見当たらなかった。
しばらくそうやって観察していると、どこから出てきたのか、扉がポツンと目の前に現れた。どうやってそこに出てきたのか、あるいは自分がこの至近距離で全く認識できていなかったのか。
突然現れた扉は、ガコンと音を立て開き始めた。扉の向こうから眩い光が漏れ、思わず目を細める。
扉が完全に開く頃には目の前で大光量の光を照射されたかの如き強い光を当てられ、思わず目を強く閉じ、腕で光を遮りつつ顔を背けた。
やがて光が消えたのを確認し、扉の方へと向き直る。
しかしそこには先程まであった扉はなく、目の前には翼の生えた少女が立っていた。
ん?翼?
翼の少女は、俺を見て満面の笑みを浮かべ、まるで遊んで興奮してる子供のように、
「初めまして!貴方の送り出しを担当させていただきます!ハニエルと申しますっ 突然ですが、貴方は死にましたのでお迎えに来ました♪」
「………は?」
この少女は何を言っているか、俺が死んだ?
「あ、分からないって顔してますねぇ。まあ無理もありません。死んだ方の殆どはその時点で記憶を捨て、魂だけの存在となりここにやって来るのですからっ 現にほら、自分の名前、分かります?」
「当たり前だろ!俺の名前は………」
あれ?俺の名前何だったっけ?
「やっぱり名前分からないですよねー。あ、でも恥じることはありません!人間はそういうものなのですからっ」
「その他にも、自分が今までどんなふうに生きてきたのか、親は?兄弟は?恋人は?そもそも今何歳?それも全て分からないでしょ?」
そんなはずはない、と言いたい。すぐに目の前の少女に記憶があることを証明し、それ見たことかと、自分はまだ死んでいないのだと、出鱈目なことを言うなと鼻で笑って突き返してやりたい。
ただそれをしようと必死に記憶を探っても、少女が言ったことを次々に証明している現実に焦りが止まらない。堪らずその場でしゃがみこみ、必死に記憶を探す。
思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ!!!
「…………」
「気は済みましたか?」
もうどのくらいそうしていたのだろう。気づけば思考は停止し、固まっていた。
結論を言えば、俺は死んでいる。………のかもしれない。まだ夢という可能性があった。しかしそれはないだろうなと自分が否定している。夢にしては感覚がハッキリしすぎているのだ。
「………これから俺はどうなるんだ……?」
そのためにハニエルはやって来たのだと言っていたから。天国があるのか、地獄があるのか。あるいは輪廻転生とかでほかの生き物にでもなるのだろうか。出来ればまた人間がいいなと思ってしまう。
「むむむ!貴方が考えてる事が私の頭に流れ込んできます!安心してください!虫になんてしませんから!」
「そこまでは思ってなかったんだが……」
「ありゃ!そうでしたかっ すみません!」
しまったしまったーと、あわあわと手を振り、やがてふぅと一息胸を撫で下ろすと、先ほどの笑顔で話を続ける。
「あなたは先程お話したように死にました!しかしながらあなたには働いてもらわないと行けないのですよ。」
ハニエル曰く、この世界の名は“純白世界(イデア)”。全ての召された魂の終着点。
そこで魂は次の役割(人生)を与えられる。そしてその役目が終われば、またこの世界でその次の役割を与えられるといったように、輪廻転生を繰り返していくのだそうだ。
しかし、人が虫にといったような極端なことは基本的にはしないし、出来ないらしい。人は人の、虫は虫の役割を与えられるのが基本なのだそうだ。勿論例外もいるそうだが。
「あなたの場合は普通に人に転生しますので、問題ありません。」
ただ、とハニエルは続ける。
「本来であればここでの事も全ての記憶を消し、真っ白な状態で送り届けるのが普通なのですが、あなたの場合には少々事情が異なりまして……」
「?どういう事だ?」
「このまま消そうとしても、あなたの場合には魂の情報量がありすぎて、魂そのものに傷、もしくは消滅してしまうんですよ……」
「は?なんで?」
「そもそもここまで会話ができるのも本来であればおかしいんです!ここに来る時、ある程度混乱を避けるために記憶の大部分を消してから来るんです。でも、あなたは自分の出生を覚えていないのに言語能力や知識だけはかなり覚えてるじゃないですか。死後どうなるかなんて普通は知識不足で考えられないんですよ。他の魂ももちろん混乱は多少しますけど、その後すんなり受け入れてハイ終了、なんですよ。」
確かにこの世界に来て、自分の事は一切わからないのに、死んだ後の世界がどうなっているか想像をしていた。でもそれは普通じゃないのか?
そんなふうによく分からずにいると、ハニエルははぁとため息をついた。
「あなたの疑問も分かりますよ。でもこの世界に来る時には概念知識も一緒に消されるんです。でも“生きる”とか“死ぬ”という概念はそもそも転生する上では必要不可欠の知識なので、消すことは困難になる訳です。」
「つまりその二つ以外は基本的には消されてしまうと?」
「その通りです!簡単に言えば「はい」か「いいえ」しか基本的には言えなくなります。」
なるほど、自分が異常なのがよく分かる。つまり目の前の少女と話していること自体が普通じゃないという事か。
「なるほど、何となく理解出来た。」
「ようやく理解してくれましたか。」
「それで、俺はこの後どうなるんだ?」
「恐らくはもうあなたの知識は消すことが出来ません。このまま記憶を持った状態で次の人生の始まりというようになるでしょう。」
それはつまり、前世の記憶を持ったまま次の人生に行けるという事だ。
「あれ?それだと俺は天才児として生まれ変わると?」
「まあ、簡単に言ったらそうなりますねー」
あれ?これって結構すごい事じゃないか?
早くも俺の中で、天才児として注目されてすばらしい人生も謳歌出来るという人生設計が完成した。
「もちろんその対策も打ちましたからね!しっかり!」
「私頑張りました!」とドヤ顔で言うハニエルだったが、どう対策したのだろうか?石器時代とかに飛ばされるとか?でもそれをしたら逆に俺は神様として崇め奉られるんじゃないだろうか。
「よくわからないが、とりあえず俺はラッキーだったってことだよな?」
「まあ、多少はそうなりますね。」
少し引っかかる言い回しをするハニエルだったが、やがてガコンという扉の開く音が後ろから聞こえてきた。
「あなたの次の人生はあちらの扉から始まります。」
「まあ、色々とありがとな」
「私は何もしてませんよ。タダの説明係ですし」
そして俺は彼女に見送られながら扉の向こうの光へと身を預けていった。ふと後ろを振り向けば、
「願わくば、あなたが
聖女のように手を胸の前で組み、祈るように慈愛の微笑を浮かべていた。
「生きて人生を全うする」か、やはり石器時代にでも送られてしまうのだろうか。
俺はそう思いながらも、やがて視界は溶けていき、意識を手放した。
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