第二五話:響くベルの音
「まだ始まって30分も経ってないのに……」
「もう動き出してる奴らがいるってことだ。そしてこの速報を聞いて全体の動きはさらに加速していくだろうな」
「どうしよう……」
「落ち着こうみんな。ゲームはまだ始まったばかりだ。それに虹玉は奪われたって終わりじゃない。取り返すことだって出来るんだ。とにかく明日の17時に照準を合わせよう」
英二は冷静にチームを仕切る。
直後、速報を伝え終わったかと思った虹玉が再び音声を発し始めた。
「続いて、ここだけのプレミアム情報をお伝えします」
――!
一同は一斉に虹玉の方に振り返った。
「とある公園のベンチの裏に、このゲームを有利に進めるヒントがあります。その公園は暗がりととっても仲が良い。繰り返します」
虹玉から流れる音声は同じ言葉を繰り返した。
「とある公園のベンチの裏に、このゲームを有利に進めるヒントがあります。その公園は暗がりととっても仲が良い。では、今回のプレミアム情報はここまでです。幸運を祈ります」
そう言うと虹玉の音声はぷつりと途絶えた。しばし沈黙が流れる。
「プレミアム、情報……?」
結有がぽつりと言葉をこぼし、沈黙を破る。
「ゲームを有利に進めるヒント……」
「罠っていう可能性もあるな」
「えっ」
「全員をその場に集めて戦わせようという罠かも」
亨は今の放送を聞いて訝しげな表情を浮かべている。
「どうだろう、俺はこの情報は活用したい」
英二は亨と異なる意を示した。
「まず、さっきのプレミアム情報が全ての虹玉に共通だという確証はない。色によって得られる情報が違うんなら玉を多く集めることにはさらにメリットがあって、ゲームは活発化するでしょ。俺が運営側だったらそう働きかけるな」
「確かにな」
「これからもこの虹玉からは定期的に情報が発信されるんだろうな。玉を失うということは、大きなハンデを負うことになるみたいだ」
「持つ者、持たざる者でどんどん格差が出来ていくわけか」
章夫が合わせる。
「なんだか、この世の縮図みたいだな」
「かっこいいこと言うね。まあ何にせよ、俺はその公園を目指したい。機会を逸することこそ最大のリスクだと思う」
「うん、そうしよ。賛成。でも、暗がりととっても仲が良い公園って……」
結有が唇に指をはわせて考え込む。
「あっ、そう言えばこの建物に入ったとき、1階のホールにエリアマップがあった気がする!」
「さすが。よし、マップを見に行こう」
英二達は階段を降り1階へと向かった。小広いホールを見渡すと、正面奥にパネルが備え付けられマップが表示されていた。
「公園は……っと」
マップに近付くと4人はすぐさま公園と思われる場所を探し始めた。
「ん、何個か公園があるみたいだな……」
亨が素早くマップを見渡して告げる。
「となると鍵になるのは……」
「暗がりととっても仲が良いっていうワードか」
4人は各々マップ上の公園を見渡していく。
「ん……」
章夫がとある公園に目を留めた。
「ここじゃないか? サンセットパーク」
「サンセット……日没か! 暗がりととっても仲が良いってのと確かに一致するな」
亨も同意する。
「ナイス、章夫!」
「おそらくサンセットパークを指してるとみて間違いないだろうな。よし、そこに向かおう」
英二が号令をかけ、一同はサンセットパークに向けて出発した。サンセットパークまでは距離にして2キロほどと、幸いにもそこまで遠くはなかった。
先ほどの速報によれば、既に虹玉を奪われたチーム、そして奪ったチームが出ている。それが戦闘によるものなのか、何か他の経緯を経てのものなのかは分からないが、既にチーム間での接触があったことは間違いない。
英二らは用心深く辺りを伺いながら歩を進めた。公園までの道中は開けた道が多かったが、幸か不幸か他のチームには遭遇しなかった。
「ここだね」
結有が公園の入り口に立て付けられた看板を見つけた。そこには確かに『サンセットパーク』の文字が記されている。
一同は公園の中を見渡した。所々に木々が立ち並び、中央にはモニュメントのような像が造形されていた。他の人の姿は見当たらない。
「おっ、あそこ」
亨が公園の中の一角を指差した。そちらに目を向けると木製のベンチがぽつんと1つたたずんでいた。
「あれか」
公園内には他にベンチらしきものは見当たらない。亨が見つけたベンチが、先ほどの放送で指示されたベンチとみて間違いはなさそうだ。
英二を先頭にそのベンチのもとへ向かう。何の変哲もない、3人ほどが腰掛けられるシックなベンチだ。
「さっき何て言ってたっけ? ベンチの下?」
「確か裏だったような……」
章夫はそう言うとベンチの裏に回り込んだ。
「おかしいな、何もない」
英二達も章夫に続いてベンチの裏へ回ったが、特にこれといったものは何もない。
「ここじゃないのかな?」
英二も頭をかしげる。
「ちょっと待って、もしかしたら……」
そう言うと結有はベンチに手を置くと、目を瞑り念じ始めた。ベンチに魔気を送り込んでいるようだ。
「おっ!」
亨がいの一番に声を上げた。
ベンチの背もたれの上からたらされた糸が、上から徐々に姿を表していった。しばらく糸が続いた後、それにつるされた小箱が現れた。
「なんだ、これ?」
結有の魔気のお陰で、それまで隠されていたものが皆の目に露になった。結有がそっと目を開け、ベンチから手を離す。
「早速、アカデミーで学んだことが試されたね。魔気の残滓みたいなものがちょっと目に入ったんだよね」
魔気の力を上手く使いこなせば、今ここにないものを作り出すことも、今ここにあるものを隠して見えなくすることも可能だ。一般に『ボックス』と呼ばれる能力だ。
一流のボックス使いは、その能力が使われていることに気付かれないよう完璧に魔気の痕跡をなくしてみせる。
今回はボックスの使用者が二流であったか、もしくは意図的にその後を残したかのどちらかだ。
試験ということを鑑みて、恐らくは後者――
しかし英二ら3人はその魔気の残滓に全く気付くことは出来なかった。一面に広がる砂利の中から、一粒の砂金を見つけ出すようなものだ。
結有は本来目に見えない魔気を知覚することにかけては図抜けた才能を持っていた。今回のように誰も気付けないような魔気の痕跡に気付いたり、誰かの魔気の本人も知らない特徴を的確に言い当てたりといったことはざらにあった。
「でも結有、ほんとによく気付いたね。普通見逃しちゃうよこんなの」
英二は半ば呆れながら、姿を現した小箱を手に取った。蓋を開けて中を覗くと、何やら小さなベルのようなものが目に入った。ベルはしきりに細かく揺れ、カランカランカランと小さな音を立てていた。
「なんだ、これ」
英二は箱の中からベルを取り出して皆に見せる。
「ベル?」
「しかし、なんかめちゃくちゃ忙しなく鳴ってるな。音は大きくないからうるさくはないけど」
ベルは一同の視線を一身に浴びても変わることなく揺れ続ける。
「ん? ちょっと速くなった……?」
章夫がベルを注視しながらつぶやく。英二もベルの動きに目を凝らす。
気のせいではなかった。確かにベルの揺れのスピードが徐々に速まっている。
カラカラカラカラ……
ベルは一層スピードを増して鳴り続ける。英二はその光景に何か不気味めいたものを感じ始めた。
「何だろう、何か伝えようとしてるのかな……?」
結有がぽろりと言葉を漏らす。
バン!
不意に、派手な音とともにベンチの表側に衝撃が伝わった。
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