第三十三話 男子高校生は夜中に目覚める1
前話のあらすじ
ランさんたちに無理やり着せられたエロ勝負水着『マイクロビキニ』で友達と浜辺で遊ぶ俺。罰ゲームで海に落とされて胸オープン。ビーチボールの勝負でエキサイトしすぎて下半身オープン。なにをやっても宏海に裸を見せるような結果になってしまって、ランさんたちは水着の戦果に大喜び。
◇◇◇
夜中になぜか急に目が覚めた。エアコンのせいで喉が渇いていたのかもしれない。
なんだか嫌な夢を見ていたような気がするけれど、どんな夢だったのか思い出せない。
水でも飲もうと起き上がろうとしたけれど体が動かない。俺の両腕はなにか柔らかいものに挟まれていた。すぐ近くで寝息が聞こえる。だんだんと記憶が戻ってきた。ああ、そうだ。昨日に続いて今夜もまた、るちあや
「今夜も
海の幸を山盛りにした豪華な夕食が済んだあと、
昼間、女子大生ズのランさんたちが樹里亞、るちあ、
おまけに、そんなザツな計画がさらなる悲劇を産むことになる。ランさんたちと樹里亞とるちあ、合計五人もの女の子に囲まれてハーレム気分になってしまった夕夜がどうやらなにかやらかしたらしい。そんなダメ彼氏にるちあがキレて、またしても大喧嘩となったのだ。
夕夜ってホントに進歩のないヤツだ。人間が失敗から学ぶことができる生き物なら、夕夜は間違いなく人間失格だ。猿だって失敗して学習するというのに……。
夕夜が猿以下ということは周知のことだからいいとして、自分の彼女が二晩も他の男と——つまり俺のことだけど——一緒に寝るだなんて普通ならとても我慢なんかできないハズだ。るちあが今夜も一緒に寝るって言い出したとき、さぞや夕夜がギャーギャー騒ぐだろうと思ったのに、どういうワケかヤツは無表情で承諾した。昨日はあんなに噛み付いてきたのに、いったいどういう風の吹き回しだ?
少し気持ちの悪い思いをしながらも、こんな経緯で俺は今夜もまた洋室のベッドでるちあや樹里亞と一緒に寝ることになってしまった。
◇◇◇
昼間はランさんたちに着せられたマイクロビキニのせいで散々な目に遇わされた。いくらキッチリと紐を結んでいても、ちょっと気を抜くとズレたり解けたりして丸見えになってしまう。こんなに脱げやすいシロモノがホントに水着なのかも疑わしい。あんなのを着て沖まで泳いで行ったら、戻ってくる頃には間違いなく全裸になっていることだろう。
ハッキリと言ってしまおう。これは隠すためのものではなく、まさに見せるための水着なんだと。
そんな変な水着を俺が嫌がりながらも着ていたのには理由がある。いくら心許ないとはいえ胸のトップを隠す機能があるのは、今の俺にとってはありがたかったのだ。さすがに二泊三日の旅行中、海で遊ぶたびにトップレスになって友達はおろか見ず知らずの人たちにまで胸を見せて歩くのは抵抗があった。お尻が丸見えになるTバックのボトムスだって、越中フンドシという立派な男性用衣服の例がある。
それに、実際に着てみるとわかるが布面積が小さいせいで胸がそれほど膨らんで見えないのだ。この恩恵は大きい。もしも胸が小さくて悩んでいるなら、海でマイクロビキニを着てはいけない。小さい胸が余計に小さく見えてしま……いや、こんな水着で海にくる女なんて、ランさんたちぐらいのものか。
「見て見て! レインボーかき氷だってぇ!」
るちあが指差す先にカラフルなカラーチョークで描かれた看板があった。『ハワイ名物』の文字もある。
「ああ! これ、食べてみたかったんだぁ!」
るちあと二人で店の前まで走っていく。
「キミたち可愛いねぇ。コレ、俺からのおまけ」
るちあと俺がレインボーかき氷を注文すると、店員の男が笑顔でそう言いながらかき氷を差し出した。鮮やかな虹色のシロップがかかったかき氷の上に、ペパーミントのアイスクリームが乗っていて、まるでカラフルな雪だるまみたいだ。
るちあがアイスクリームを落とさないようにレインボーかき氷をスプーンですくって口に入れる。俺も真似をしてかき氷を食べてみた。過剰な甘さと脳天まで突き抜ける冷たさに目眩がするほど美味しい!
店員の男の言葉を思い出すとなんだか釈然としないけど……。
「可愛い娘だけにおまけだなんて、男からみたらなんだか納得いかないなぁ」
疑問を口に出してみると、るちあが変な顔をして俺を見た。
「いいんじゃない? 東條くんも今は女の子だしぃ」
遅れてやってきた宏海と夕夜が注文したレインボーかき氷にはおまけはついてこなかった。
「女の子って得だなぁ」
俺のつぶやきに今度は樹里亞が答える。
「そんなことないわよ。可愛い女の子がコレを食べながら浜辺を歩くだけで店側にとっては良い宣伝になるの。その費用対効果を考慮したら、アイスクリーム一個なんて安いコストだわ」
小さなアイスクリームのおまけがそんな経済学っぽい話につながるのか! 俺は男のスケベ根性の話をしてたのに……。
宏海と夕夜は俺のアイスクリームが乗ったかき氷を見て、なにか言いたそうな顔をしている。
文句があるならお前らも女装すればいいんだよ! なんなら素敵な水着を無料で貸してくれる親切なお姉さんを紹介してやるぜ。
「樹里亞はどうして食べないの?」
一人だけアイスコーヒーを飲んでる彼女に尋ねてみた。
「ノースショアで食べたことがあるけど、ソレとは全然違うのよ。三色のシロップで虹色を作ってるでしょ? 本物はもっとたくさんかかってて綺麗な虹なの。他にもいろんなシロップが選べるし……。偽物に500円も払うのはバカバカしいでしょ」
さっきまで甘くて美味しいと感じてたレインボーかき氷が一瞬で最低の味に変わってしまった。
◇◇◇
「紐が解けない着方? もちろんあるわよぉ」
豪華な海の幸をふんだんに使った夕食に舌鼓を打った後、みんなで近所のお土産物屋を覗いていてランさんたちにバッタリと会った。そこでコッソリと宏海との進捗状況を聞かれたりしたんだけど……まぁ、なんというか……なにも進んでねぇーよ!
ついでに、問題の紐ビキニの解けない結び方を聞いたところ、あんな返答が返ってきたのだ。
え? あるの?
「ソレ早く言ってよー」
「だって、解けなかったら見せられないじゃない! それともなぁに? 雪緒ちゃんは自分で誘惑できるっていうの?」
誘惑なんかできないよ! いや、違う……しねぇよ!
心の中でそう叫びながらほっぺたを膨らませて、じっーと彼女を睨みつける。
ランさんの息が酒臭い。きっと豪華な海の幸を肴に飲んでたのだろう。そう言えば昨日もビールを買ってきてたし、今日だってビーチで飲んでたみたいだ。女子大生ってちょっと前まで高校生だったハズなのに、こんなにお酒を飲むものなのか?
お酒にはちょっとだけ嫌な思い出がある俺たちは誰もアルコールを持ってきてない。
「明日はあの勝負水着でビーチの端から端まで歩くのよ。そしたらきっと良い事があるから。上手くいったら解けない結び方を教えてあげるわ」
そう言って彼女たちは三人で店を出ていってしまった。
え? なに? 今教えてくれるんじゃないのかよ?
◇◇◇
そして俺は女子部屋となっている洋室で目が覚めた。右腕にるちあ、左腕に樹里亞が抱きついて俺を拘束していた。本来なら男冥利に尽きるというか、両手に華というか、見る人によってはリア充爆発しろ! ……なんて言われかねない美味しいシチュエーションではあるけれど、今の俺にとってはまったく嬉しくないものだった。
慎重に腕を引き抜こうと試みたけれど、いくら動かしてもビクともしない。これが片腕だったら、なんとか引き剥がして起き上がることができたかもしれない。でも、両腕が使えない状態では体の向きを変えることさえ困難だ。
俺だって、るちあの大きくて柔らかい胸は大好きだ。この胸に抱きついているだけで、まるで赤ん坊の頃に戻ったような心の安らぎを感じる。自分が男であるとか、ホントは女だとかそんなことがまるで取るに足らない瑣末なことに思えてくる。
左腕に抱きついている最愛の彼女……樹里亞もそうだ。彼女は俺よりも背が高くて、まるでファッションモデルのような体型と大人びた美しい相貌の持ち主だ。でも、その容姿に似合わない優しさで俺を包んでくれる。樹里亞は突き出した形の良い胸を俺の腕に押し付けながら、柔らかい太ももで俺の手のひらを挟んで締め付けていた。
男なら誰もが羨む状況なのにどうして嬉しくないのかと言えば、ちょっと一言では説明しづらい。これは俺の体の問題に起因するのかもしれないし、あるいはまったく関係がないことなのかもしれない。でも、誤解を恐れずに簡潔に言ってしまえば、この言葉で語り尽くすことができてしまうだろう。
今すごく、トイレに行きたい!
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