第124話 迫り来る兵器
「デニール王子っ! 兵器が動き出しましたっ!」
「う……、うんっ? ヘレンか」
ほら、呑気に寝てる場合じゃないよ、デニール王子。
まあ、椅子で寝てるところを見ると、あまり長く寝ていたとは思えないけど。
「現在、砦の東側では、アイラが各所に報せを回しております」
「了解……。では、相手に気取られないように準備するように言ってくれるかな?」
「はい、ローレン将軍にお伝えします」
「兵器が到着するのと、夜が明けるのはどちらが早そう? どうせなら早く仕掛けてもらいたいよね」
「夜が明ける前には到着しそうです。アイラの見立てによりますと、思いの外、兵器の進行具合が早いとか」
「そう……。と言うことは、ギュール軍はこちらが兵器に気がついていないと思ってるね」
「仰せの通りにございます」
「じゃあ、尚更、準備を気取られてはいけないね。魚は掛かったけど、釣り上げるまでは細心の注意が必要だからさ」
やきもきさせやがって……、ダーマー公の奴。
でも、これで一安心かな?
暗い内なら、騎兵隊が出ても分からないよ。
特に、火矢を兵器に射かけるから、どうしても目はそっちに向くだろうからね。
「おっ? コロも来たのか。じゃあ、僕と一緒にここで戦況報告を聞こうよ。兵器に対しての策は、コロがいなかったら効果が半分もないからね」
「……、……」
「ところでヘレン? コロはどの部隊に所属させれば良いかな? ……って、ヘレンもそう言えば所属が決まってなかったね」
「……、……」
所属?
俺としてはいつもエイミアと一緒にいたいから、クリスのところに所属したいんだけど。
……って、それは無理か。
俺が救護班にいたって、何の役にも立たないからな。
まあ、アイラと一緒に騎兵で突っ込むんだし、コール将軍のところが妥当かな?
「コロは、コール将軍の部隊が宜しいかと……。だいぶ虎猫も集まっているようですし、コロが一匹入っても分からないと思います」
「あ、そうだったね。猫を集めたんだって? 何匹くらい集まったの?」
「とりあえず、十二匹だそうでございます」
「そう……。意外と集めるのに苦労してるね」
「コロと毛色が違う猫を省いているそうで、それで少なめになっていますが、その分、かなりちゃんと見ないと見分けが付かない感じです」
「ヘレンは見たの? その猫達を……」
「はい、中にはコロそっくりで、私でも間違えそうな猫もおりました」
「あはは、それは僕も見たいなあ。だけど、良くそんなことを考えついたね」
「これは、アイラの発案でございます。私も他の案を考えていたのですが、アイラの案がより良いかと思いまして……」
「なるほどね、ヘレンの案にしては大胆でユニークだと思っていたんだ」
えっ?
もう、そんなに集まってるの?
俺、ちっとも知らなかったよ。
しかも、そっくりの奴がいるのかあ……。
俺の身を守るための策だから仕方がないけど、どうも似てる猫がいるって言うのはあまり気持ちの良い感じはしないなあ。
だけど、どうせそんなことを言っていても、エイミアやヘレン、アイラなんかは俺と他の猫は区別が付くんだろう?
なんせ、あの情報屋の変装だって見破ってしまう三人なんだからさ。
……と言うか、分からなかったら、噛みついてやるからね。
あ、エイミアだけは頬ずりしてくれれば許しちゃうけど……。
「ヘレンは、ローレン将軍の部隊所属が良いね。細かく指揮するのに、ローレン将軍と相談しながらの方が円滑に進みそうだし」
「はい……。私に関しましては、ローレン将軍の方からそう言っていただいております」
「そうなんだ。まあ、ローレン将軍はヘレンのことが気に入っているようだからね」
「ローレン将軍をはじめ、この砦の皆様には本当に良くしていただいております」
おいおい……。
つい、この間までなかなか信用してもらえないって言ってなかったか?
それがどうだい。
俺達が着いてから二週間しか経ってないのに、すっかり馴染んじゃってさ。
今じゃ、占い師なのか、軍に所属しているか分からないくらいじゃないか。
ヘレンってさ、こういうところも本当に凄いよ。
俺なんか、会社にいたときだって誰からも信用されなかったのになあ。
まあ、見た目も大きいのかな?
ヘレンも、エイミアも、アイラも、それぞれ個性的ではあるけど美少女だからなあ。
俺が人間のときみたいに、平凡を絵に描いたような容姿じゃ、やっぱダメなのかもしれない。
あ、別に、俺、ひがんでいるわけじゃないよ。
だって、三人みたいな専門の技能もなければ、強い気持ちも持ち合わせてはいないからさ。
……と言うことは、結局、何を較べても三人には敵わないってことか。
俺自身が情けないのは分かっていても、改めて認識すると結構辛いものがあるなあ。
「伝令っ!」
「うん……」
「ゴルの丘を出立した兵器の一団は、市街地に入りましてございますっ!」
「そう……。兵器の数は変っていない?」
「はっ! 全十機で変っておりませんっ! 砦の東門目指して進行中のように思われますっ!」
「では、市街地を抜けたら、もう一度伝令に来て」
「ははっ!」
「下がって良いよ」
デニール王子は深くうなずくと、伝令をした兵に、
「お疲れ様……」
と一言、声をかける。
そして、机上のマルタ砦近辺の略地図に目をやると、チェスの駒のような木の模型をその上に置いた。
「今、ここか……。うん、確かに早いな」
「……、……」
「コロ、分かるか? 今、この地点に兵器がいるんだ。砦はここでゴルの丘はここ……」
「……、……」
「もう、半分くらい来ているんだよ。こんなに早いなんて、かなり多くの馬を集めたんだね、ダーマー公は。それだけに、暗い内にどうしても着いてしまいたいに違いない」
「ニャっ!」
「うーん……。大量の馬が東側の陣に入るってことは、西側にはほぼ騎兵はいないってことか。じゃあ、西側は全部歩兵隊かな?」
「……、……」
まあ、そう言うことになるんだろうね。
砦に取り付くのが目的なら、騎兵はあまり役には立たなそうだしね。
弓隊も兵器を守るために必要だろうから、やはり西側は歩兵ばかりじゃないかな?
「そうか……。だとすると、そろそろ西側で動きがあるはずなんだけどな」
「……、……」
「陽動しないと、いくら兵器の移動速度が速いとは言え、見つかることを恐れるだろうからね」
「……、……」
「歩兵で攻めかかるのには、結構時間がかかる。夜明け前に東側を攻めるとすれば、もう、西側から伝令が来るはずなんだが……」
「……、……」
うん、そうだよね。
ヘレンも西側で陽動のための戦闘が先に始まるって言っていたよ。
でも、伝令が来ないところをみると、ドーソン将軍が警戒を怠ってるんじゃないか?
もし、寝ていて伝令を忘れたなんてことがあったら、許さないからな。
「コロ……。こんな言葉を知っているかい?」
「……、……」
「夜討ち朝駆けは戦いの基本……、って良く言うんだよ」
「……、……」
つまり、ドーソン将軍くらいの古株なら、それに備えていないことはないってことかい?
だけど、現実に、伝令は来ていないよ、デニール王子。
「ダーマー公もそれは百も承知のはずなんだ。だから、陽動の目的があるのなら、今が一番仕掛けやすい時間なんだよ」
「……、……」
「……って、僕が焦っちゃ仕方がないけど、やはり決戦が控えているのが分かっているだけに緊張するよ」
「……、……」
「ふふふっ……。コロもそうなのかい? 何か、いつもより鋭い目つきだものね」
「ニャア……」
お、俺はもう緊張してないぞっ、デニール王子っ!
だけど、ちょっとだけビビってるかもしれない。
情けないけど……。
初陣なんで、勘弁してよね。
緊縛呪は、撃つときにはちゃんと撃つからさ。
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