第35話 解明の糸口
「……と、なりますと、ルメール宰相を更迭しても、問題は解決しないわけですか」
「うむ……」
ゴードンは、髭をなでながら言った。
デニス国王も、髭をなでながらうなずく。
……と言うか、この主従は似てるな。
ゴードンはよほどデニス国王に忠誠を誓っているのだろう。
そう言えば、髭の生やし方も似ているし……。
「ルメールを更迭したところで、裏切りのオーブを使っている者が特定出来なければ、また操られる者が出てくるのだ」
「……、……」
「だが、裁きのオーブは裏切りのオーブを見つけ出せんでいる」
「……、……」
なるほど……、そう言うことか。
トカゲの尻尾をいくら斬っても、また生えてくるのと同じなのか。
よく考えてみると、操られている人間を更迭し続ければ有能な人材が減っていくだろうし、かと言って、裏切りのオーブを放っておくと害は残ったままだし……。
これ、国を蝕む相当厄介な相手なんだろうなあ……。
「国王陛下……。もう一度、裁きのオーブにお尋ね願えますでしょうか?」
「それは構わんが、何を聞けば良い?」
「裏切りのオーブに操られた者を元に戻す方法でございます。緊縛呪も、とても恐ろしい効果がありますが、シュールの薬で治癒は可能でございます。だとすれば、操られた者を治す方法もあるのかと……」
「うむ……」
「幸いにも、私は操られた者を識別可能でございます。もし、治す方法があるならば、裏切りのオーブに対抗することが可能なのではないでしょうか?」
「なるほど……。ヘレンの申すこと、もっともであるな。しばし待て……、さっそく聞いてみるとする」
デニス国王は、深くうなずくと、また宙の一点を見据えた。
「ヘレン……。残念だが、治癒の方法はないようじゃ」
「……、……」
「裏切りのオーブを使う者が命ずるままに操られると、裁きのオーブは言っておる」
「……、……」
デニス国王は、今度はすぐに答えた。
ヘレンが、顔を曇らせる。
「では……、裏切りのオーブを使う者を特定しオーブから隔離しなければ、操られている者はいつまでもそのままと言うことでございますね?」
「うむ……、そう言うことのようじゃ。だから、裁きのオーブにも、今のところ打つ手がないのだ」
「……、……」
「すまんな……。わしも何とかしたいと思っておるのだが……」
そうか……。
ヘレンの提案は良いと思ったんだけどなあ。
「わしも、色々と聞いてみたんじゃが……、あまり参考になりそうなことは聞けなかったのだ」
「……、……」
「裏切りのオーブは、人が嫉妬する心に乗じて人を操るらしいのだ。だが、人は誰しも嫉妬や妬みなんて感情を持っておるのでのう……」
「……、……」
デニス国王が言葉を切ると、ヘレンも他に策がないのか下を向いてしまった。
ゴードンにいたっては、どうすることも出来ない状況にイライラしているのか、若干、怒っているようにも見える。
まあ、卑劣な奴っているんだよな……。
自分の手を汚さないで、旨い汁だけを吸おうとする。
俺は、散々、人間のときにそう言う奴を見てきた。
だけど、そう言う奴に限って、いつまでものさばってるんだよ。
ゴードン総長……。
俺、あんたみたいな真っ直ぐな人好きだよ。
卑怯なことに率直に怒りを表せるのってさ。
皆が押し黙ってしまった。
誰にもどうすることも出来ないのかな?
俺って、いつもこういうときに無力だよな……。
「……って言うか、結局、裏切りのオーブを持ってる奴を、見つけてぶちのめせば良いんだろう?」
皆が沈黙する中、アイラがぼそっと呟いた。
「アイラ……、そうは言うが、どうやって見つけるんだ? お主、誰が裏切りのオーブを持っておるのか知っているのか?」
「いや……、あたしには分からない。だけど、手がかりはあるよ。ヘレン、おまえだって気がついているんだろう?」
ゴードンはアイラを責めるような口調で問いただしたが、アイラはまったくひるまない。
「そうね……、手がかりは、昨日、アイラが教えてくれたわね」
「やっぱり気がついていたんだ。だったら、そんなに辛そうな顔をすることはないだろう?」
「……、……」
「たぐる糸が分かっているんだったら、まずはそれをやってみるしかないじゃないか」
「……、……」
「結果、何が出てきても、何もしないよりマシじゃないのか? それとも、憂いていればことが解決するとでも言うのか?」
「……、……」
「あたしはヘレンが何で悩んでいるのかは分からない。だけど、どんなに困難でも、前を向かなかったらどうにもならないんじゃないか?」
アイラは弱々しく首を振るヘレンに、熱っぽく語りかけた。
いつも自信に満ちあふれているヘレンなのに、今は、見る影もない。
「ヘレン……、どういうことなのか申してみよ。」
デニス国王は、優しく尋ねた。
そうだよ……、言わなきゃ分からないよ。
皆が見つめる中、ヘレンは、顔を上げた。
その頬には、一筋の涙の跡が……。
泣いているのか?
どうしてだ、ヘレンっ!
「国王陛下に申し上げます……」
「うむ……」
「ただ今、アイラが申しました手がかりについて、ご説明申し上げます」
「……、……」
ヘレンは、涙も拭わずに語り始めた。
ただ、この声には、先ほどまでの弱々しさはなかった。
「ルメール宰相閣下が私共を捕縛する命令を出した際に、私達の中に暗黒オーブの使い手がいることをゴードン総長閣下に伝えました」
「……、……」
「つまり、ルメール宰相閣下を操っている者がそれを知っていたと言うことでございます」
「まあ、そう言うことになるな」
「だとすれば、その者はどうやって暗黒オーブの使い手がいることを知ったのでしょう? この点が、私共にもずっと謎でした」
「……、……」
「ですが、昨日、アイラがその情報源に気がついたのでございます」
「どういうことじゃ?」
「昨日、警備庁に入る際、副警備総長のベック様とアイラが勝負をいたしました。結果はアイラが勝ち、無事、ゴードン総長閣下に拝謁することを得たのですが、その際にベック様が突きの剣技を繰り出されまして……」
「……、……」
「その、突きの剣技は、ゴードン総長閣下の仰せによると、親衛隊の道場で学ぶことなのだそうです。つまり、王宮内で剣技を学んだ者しか、同じような突きは繰り出さないのでございます」
「……、……」
「アイラが申しますには、以前、同じタイミングの突きを受けたことがあるのだそうです。私も、その現場におりました。ですが、その突きを繰り出した者は、傭兵を名乗り、バロール一家にいた者なのです」
「……、……」
「王宮で剣技を学んだ者が、バロール一家のようなならず者達の中にいる……。しかも、その素性を隠して……」
「……、……」
「さらに、この者は、コロが初めて緊縛呪を発動したときにも、現場でそれを見ております」
「何っ!」
「つまり、裏切りのオーブを使う者が、私共の中に暗黒オーブを使う者がいると言う情報を得たのは、この傭兵を騙る者によってだと推定出来るのでございます」
「……、……」
な、何だと?
アイラがベックと戦っているときに何か言っていたのは、そう言うことだったのか。
だから、アイラはベックを同じように倒して見せたのか……。
ヘレンなら気がつくことを分かっていて……。
「つまり、こういうことか? その傭兵を捕らえ、誰に情報を流したか聞き出せば、自ずと裏切りのオーブを使う者に辿り着くと……」
「仰せの通りでございます。その者は、今、ホロン村にて、エイミアの薬屋をきりもりしております」
「な、何っ!」
「先ほど、警備隊の所長スミス様にお尋ねしたところ、エイミアが送った薬草は、確かに店をきりもりしている男が受け取ったと報告があったとのことですので、今もその者が薬屋にいることは間違いありません」
「……、……」
「その者の名はブラン。この者が手がかりにございます」
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