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水谷なっぱ
201709_酒
【彼女との距離】
「一杯いかが?」
小柄な少女がこちらに盃を勧めてくる。
「そいつはお断りだ。お前からの勧めを口にするわけにはいかない」
「あら、いけずなお人」
少女はなんとも思っていないような顔で盃を弄ぶ。
彼女は人ではない。鬼だ。酒を勧める鬼。人を酔わせて弄ぶ鬼。だから彼女から勧められる酒など飲むわけにはいかなかった。
「そいつを飲んだらお前に呑まれちまうんだろう」
「ようわかっとりますなあ」
「お前との付き合いも長い。わかるさ、それくらい」
「そないなら、そろそろうちの気持ちにも気づいてほしいわあ」
「人間で遊びたいだけだろう」
「あんさんに限ってはどうでしょうなあ」
彼女の気持ちなど、鬼の気持ちなど、おれには一生わかるまいて。
【パウンドケーキ】
パウンドケーキを作っている。リキュールを入れすぎたのか、その香りにくらくらする。それでも入れないわけには行かなかった。わたしは今とても酔っ払ってしまいたいのだ。だけどそのまま飲むわけにはいかない。未成年だから。だからこうしてお菓子にたんまり注いでいる。
「ねえ、お酒臭くない?」
「そう?」
姉がキッチンを覗き込む。
「あんた子供なんだからあんまり飲み過ぎちゃ駄目よ?」
「ちょっとならいいみたい」
雑な姉だ。
それでもとにかく生地を混ぜる。悲しいことも悔しいことも全部全部生地に混ぜ込んでしまうのだ。
「泣きながらケーキ混ぜるの止めなさいよ」
「放って置いて!」
デリカシーのない姉がちょっとうらやましくなってきた。
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