第24話 西施

越壑楊林鯉易沈


姑蘇台上宴灯陰


薪蒸捨棄金閨寵


憶昔誰知翠黛音




下平声十二侵

世界史創作企画テーマ【西】





★自分メモ

なぜ自分メモを残すかというと、作ってから時間が経つと、自分で読みも意味も分からなくなってしまうからです。

その時のメモを見返せば思い出すのですが、だったら最初から自分メモも一緒に書いておいた方が分かり易いので。

というわけで、以下、作品の読みと意味、作品制作の手順等を詳細に描き残しておこうと思います。

「そんなの読む必要無いわ」という方はスルーでお願いします。





テーマが西なので、西フランク王国とか考えたけど、作れそうにないので、素直に中国史題材にする。

で、思いついたのが西施と西太后くらいだったので、西施にする。

西施を題材とした詩として、李白の蘇台覧古や王維の西施詠、蘇軾の飮湖上初晴後雨などがあるので、それらを踏まえた上で考える。

詩形はオーソドックスに七言絶句にする。

まず全体構成を考える。一句目で越の情景描写。二句目で呉の情景描写。三句目で西施を謳って、四句目でその後西施がどこへ行ったか分からないことを述べる、という概略を決める。

韻は、沈魚落雁の沈を活かしてみたいと思い、使いやすい下平声十二侵にする。下平声十二侵は、杜甫の春望の韻だと言えば分かる人は分かると思う。深、心、金、簪、などの字を使える。

王維詩に「朝為越溪女」というワードがあり、西施は河で洗濯しているところを見出されたともいわれ、また沈魚落雁の沈魚のエピもあるので、一句目の越エピは谷と水で考える。西施は薪採りだったようなので、木要素も入れる。林は下平声十二侵の韻字なので、押韻箇所以外ではできれば使わない方が良いのだが、目くじらルールなので無視して使う。他の語に置き換えようと思えば簡単にできると思います。

二句目は呉の情景描写なので、谷との対比で山。一句目が水だったので、対比として火を使おうと思ったので灯り。光のあるところには陰もあるということで対比し、その後の滅びの伏線とする。

三句目。呉王夫差は臥薪嘗胆の薪の寝床に寝たというエピがあったし、西施はかつて薪拾いだったが、今となっては薪は捨ててしまい、立派な寝室で寵愛を受けている。金も下平声十二侵の韻字なので避けた方が良いのだがもうめんどくさいのでそのまま使う。金閨は唐の王昌齢の従軍行から。寵は王維詩から。

美人を表す語はいくつもあるが、顰みに倣うの故事もあるので、眉に関する翠黛を使った。翠黛は大江朝綱の王昭君から。



・詩の読みと語注と意味。


越壑 (えつがく)の楊林 (ようりん)、鯉、沈み易し

姑蘇 (こそ)台上 (だいじょう)、宴灯 (えんとう)の陰

薪蒸 (しんじょう)捨棄 (しゃき)し、金閨 (きんけい)の寵

憶 (おも)う昔、誰か知らん、翠黛 (すいだい)の音




壑は谷。谷に置き換えてもいいけど、渓はダメ。

姑蘇台は呉王夫差の宮殿があったとされるところ。

薪蒸は、たきぎ。薪は大きいたきぎで、蒸は小さいたきぎ。

金閨は女性の立派な寝室。

翠黛は美人の眉。ここでは西施のこと。

音はここでは音沙汰、たより、の意。



全体の意味

越の国の渓谷、楊の木があるところ、薪拾いの西施がいる。川で洗濯をするとその美しい足を見た鯉が容易に沈んでしまう。

姑蘇台の呉王夫差の宮殿では、暗くなるまで宴の灯りがついていて、陰をつくる。

かつて薪の寝床に寝ていた夫差も、かつて薪拾いをしていた西施も、今では薪を捨ててしまい、立派な寝室で寵愛をうけている。

昔に思いをはせると、誰が知っているであろうか、眉を顰めるさまが美しかった西施のその後の音沙汰を。



・その他

たぶん初めて漢詩らしい漢詩を作ったんじゃないだろうか。

今まで作ったのって、事象を並べただけの、言うなれば型にハマった平成自由詩だったという感じだけど、今回のは詩っぽい詩になっている。

ただし、詩としての出来の良さがどうかに関しては、それとは別ベクトルなので。まあ、現代日本の一般人が作ったものとしては、こんなもんだと思います。


平仄は以下の通り。下平声十二侵で、韻字は、沈、陰、音。


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