3ページ

「最後までマスターを頷かせられませんでしたから」

「僕の得意なカクテルだからね。まだまだ若造の想太には越せないかな?」

 なんて、不敵な笑みを浮かべながら店には不釣り合いなぐらい立派なバックバーからジンを取り出した。

 マスターの動きはシェイクからステイから、全てにおいて芸術的に美しいと何度見ても思う。静かでなめらかで滑るような手つき。あんなに長く見ていたのに、俺はその十分の一も吸収できていないと思う。

 俺の中でマスターは本当に最高のバーテンなのだ。

「やっぱり、マスターが作ると凄く美味しいですね」

「だてに何年もバーテンやってないからな」

 何てこと無いように言うけど、凄く恰好良い。いつか俺も、マスターみたいなバーテンになれたら・・・。

「じゃ、今度は想太が何か作ってくれよ」

「え」

「僕も久しぶりに想太の酒が飲みたいな」

「・・・いいんですか? 勝手しちゃっても」

「お前はそんな子じゃないでしょ」

 きっと一生この人には敵わないんだろうなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る