細胞レベルで、恋させてみた
アーモンド
ウイルス
やあ、俺はウイルス。
細胞を汚染し、仲間を増やす為生まれてきた存在。
読者は人間だろうから言うが、アナタたちにとって俺は害悪でしかない訳だ。うん。
まぁ俺だって仮にも生物だし、並に恋とかしたいけど難しい。
何せ誰も相手にしてくれない。
俺の友達なんて告った相手に消されてたね、「私は白血球なのに告白だなんて、身の程知らずもいいところだわヒヴ!」
名前読み間違えられてたけど、あれはさすがに可哀相だったなぁ。
免疫の大軍にもみくちゃにされて、そのまま血管の外にポイされてたんだから。
無論彼は帰らなかった。
そんな危険なところだとしても。
ウイルスでも恋がしたい。
俺みたいな、名前すらない奴だとしてもだ。
アナタたち人間も、多分そうだろ?
さて、こんな悠長に話している俺。
実はメチャクチャピンチなんだよね。
目の前にキラーT細胞っていう、最凶女子がいるんだが。
というのも彼女が見回りしていた時、たまたまその周回コース上にいた俺を見つけて捕らえたのである。
ウイルスなら見境無くミンチにされるって噂で聞いていたけど、正直可愛い。
ヒトに対する説明だと、この萌えがかなり伝わりにくいはずだ。
キラーT細胞に、初恋の相手の輪郭を包む、あのキラキラ感が見えるのだ。
……実際には彼女、輪郭らしいものは持ち合わせていない不定形タイプなのだが。
『アナタ、良くアタシの前に居れるわね』
『……キラーT細胞さん、命乞いという訳ではありませんが、めちゃ美人ですね』
『言い訳にしか聞こえないんだけど』
『すいません、でも本音なんです』
アタックかけるのにはかなり早すぎた。だがウイルスの短い生命を考えれば、選択肢は最早『当たって砕けろ』しか無いのである。
『一目惚れしてしまったんです。他でもない、アナタに!』
『ウイルスなのにキモ過ぎなんだけど!』
『いくらでも罵倒して構いませんから!
殺られる前に少しでも長くアナタの美貌を見つめさせてはくれないでしょうか!?』
『……正直イカれてるわ、アナタ。
来世ウイルスじゃ無かったら考えるわ』
『ありがとうござ』
そこで俺は生命を終えた。
彼女の態度からするに微塵も、躊躇いは無かった。
だがしかし、痛みすら無かったのが逆に、俺を燃え上がらせた。
【彼女はもしや、俺みたいなのを哀れんで即死させてくれたのではないか】と。
となれば彼女は相当な器だ。
もう俺には、彼女しかいない。
薄れていく生命の残滓の中、そう思った。
ふと気が付くと、誰かに呼ばれていた。
『……ほら、はよ分裂しろ~』
俺は、また体内にいた。
だが今度はウイルスではなく、細胞として。
かなり遠くだが、彼女はいた。
俺は必死に分裂し、その度に彼女に近づいていく。
『キラーさんキラーさんキラーさんキラーさんキラーさんっっ!!』
そして彼女がこちらを振り向き、囁いた。
『待たせるとか、マジ無いわ……。
罰として、アタシから目、離しちゃダメ』
そう言って、笑う。
少し意地悪で、怒ると世界最凶に怖くて、でもきっと、寂しがり屋で根は優しい。
そんな彼女に恋をする事が出来るから、ウイルスに生まれてきて良かった。
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