17.魔女さん、武器を選ぶ
「ギルドマスターってのは、一体誰なんだ!? あのジャスパーとかいう男じゃないのか!?」
リサは『精霊の依り代』をいじりながら、叫び声をあげるクロに見もせず答えた。
「ジャスパーは違うよ。ジャスパーじゃない。とにかく違う」
「何を理由にそう思った!?」
「だって、ギルドマスターってギルドを統率する人のことでしょ」
リサはようやく顔を上げた。
クロが瞠目する。
「ギルドの状況を一番に把握してなきゃいけないような人がギルドから離れて遠征に行くとか、昨日私たちを助けたみたいに簡単に外に出たりしないよ」
「......だが」
「名乗り出られたってそれが本当のことだとは限らないよ」
クロの反論をリサが苦笑して受け止める。
クロが更に目を大きく見開いた。
緑色の瞳に見つめられてリサが珍しく居心地悪そうに身じろぎする。
「く、クロちゃん。そんな見られても」
「いつも図々しいくせに」
クロが呆れた目をする。
リサが頬を膨らませた。
「じっと見られるの、苦手なの」
「あれだけ苦手なことのないお前でも苦手なことがあるのか」
「その発言、なんか矛盾してるよ」
クロに突っ込みをいれたリサは、再び端末を操作する作業に戻った。
クロがリサの背後にあった椅子に飛び乗り、ソファに寝転ぶリサを見下ろす。
「それで、お前は何をしてるんだ?」
「武器を買おうかなって思って」
クロの前にひらひらと端末を振ってみせるリサ。
画面には、多種の武器がずらりと並んでいた。
剣から盾まで。槍や弓や針まである。
クロが声を尖らせた。
「武器なんて買う必要があるか? 俺がいるだろう」
「ほほう。クロちゃんが私を守ってくれると。頼もしいねぇ」
「お前が死んで困るのは俺だからな」
素で答えて、クロが視線をリサから画面に移す。
ときめきの欠片もない。
これが元の魔王の姿であったのなら、多少は違っていただろうか。
「クロちゃんが言っても可愛いだけだしね。それに保護対象にしか見えない」
「いつも守られてるのはどっちだ。何度俺がお前の命を救ったと思ってる!?」
「えっと、忘れちゃった」
「お前......」
恩義を全く感じていないリサの発言にクロが呆れた視線を向ける。
慣れすぎて罪悪感は欠片もない。
リサの図太さからしても、元から罪悪感を感じていたとは言えないが。
「ねね、クロちゃんは武器何がいいと思う? やっぱ剣とか銃がいいかな」
「もっと小さなものでいい。護身用として持っておくぐらいで充分だろ。お前、初級の魔法スキルは全部使えるんだから」
「でもねぇ、銃は高いんだよね〜。となると、やっぱり剣かな」
「俺の意見、聞く気ないだろ」
意見を求めておきながら、クロの発言を無視するリサ。
主人の粗雑な対応に、クロは改めて為政者の器の重さを思い出す。
「いや、俺も似たようなものだったか」
「なーんか、シリアスな発言してるクロちゃんには悪いけど、私はそんなクロちゃんのこと大切に思ってないわけじゃないからね」
「自分の発言を省みて、本当にそれが真実だと言えるなら頭がおかしい」
「ひどい」
容赦のない物言いだ。
誰に似たのかは明白である。
「あ。そいえばさ、クロちゃん。前に言ってたウィリアムって人はどうするの?」
「......ああ。って、何がだ?」
「いたら殺すの? 殺さないの? まあ。心優しいクロちゃんには、魔王だったころの部下を殺すなんてできっこないだろうけどさ」
肩をすくめるリサ。
クロが耳を震わせ、感情を押し殺した声で言葉を紡いだ。
「ウィルは、ウィリアムはいないはずだ。俺がこの目で確かに見た」
何を、と促すほどの時間はなかった。
クロは一息飲み込んで、
「ウィルは死んだ。勇者に殺されて」
狼王の死を静かにそう告げた。
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