14.魔女さん、依頼を受ける
受付の少女から、冒険者カードを受け取り、リサは説明を受けていた。
「ギルドでは、冒険者がランクごとに分かれています。一番上がSランク、一番下がFランクです。リサさんにも、一番下のFランクから始めてもらうことになります」
「ランクが上がると何か変わるんですか?」
「はい。受けられる依頼が変わってきます。ランクによってクエストの難易度が違うので」
ランクが高ければ高いほど、難しい依頼が回ってくるということだろうか。
「ランクってどうやって上げるんです?」
「決まった量のクエストをこなしたり、ランクアップのための試練を受けたりしてもらっています」
少女がリサの背後を指し示した。
振り向くと、入り口のすぐ近くに何枚もの紙が貼られたボードがある。
あれがクレストボードだろうか。
「あの中から自分のやりたい依頼を受けるのがフリークエストになります」
「クエストにも種類が?」
「はい。ギルド側から振り分ける指定のクエストと自分で自由にやりたいクエストを決めるフリークエストがあります」
指定のクエストはランクごとに振り分けられるということだろう。
冒険者もただ自由な職業ではないようだ。
「指定クエストも受けるか受けないかは自分で決められます。ただし、サボりすぎると冒険者登録を取り消させていただいていますが」
ギルドも、サポート専門の商売ではないということが垣間見える発言だった。
「指定クエストの多くは一定期間の間にこなして欲しいというものなので、急にお願いしたりはしません。よほど、断られない限り、登録を取り消されることはありませんよ」
安心させるように少女が微笑む。
小さなリス耳が震えた。
「それから、冒険者はパーティを組むことが多いです。単身だと万が一の事態に遭遇したとき危険ですし」
「パーティですか」
「メンバーは3人から6人ぐらいです。人材を必要としているパーティはいくつかあるのでよければ紹介しましょうか?」
「......いえ、とりあえずは結構です」
やんわりと断り、リサはクロを見た。
「この子......。クロもパーティメンバーの中には入りますか?」
「そうですね。魔物使いの使役している魔物はパーティメンバーとして数えられます。その子のカードも作りましょうか?」
「今はやめておきます。今日は簡単な依頼を受けようと思って来ただけなので」
「そうですか。それじゃあ......」
少女がリサに背を向け、カウンターの奥にある棚へと手を伸ばした。
リサに向き直り、一枚の紙を差し出す。
「初級冒険者がよく選ぶ依頼の一覧です。依頼主のほとんどはギルドになっています。ギルドで生成している回復薬の材料、薬草などの採取ですね」
依頼の書かれた紙に目を通し、リサはさりげなくクロにも見せる。
書かれている文字は相変わらず読めない。
『いいんじゃないか。薬草採取で。魔物との戦闘は極力避けられそうだ』
『ん、りょーかい』
クロの了承をもらい、受付に薬草採取の依頼の説明を受ける。
「採取してきて欲しいのは、アカノ草とモコモコ草です。どちらも名前通りの見かけなので一目で分かると思いますけど」
そう言いながら、少女がサンプルなのか二つの草を取り出した。
アカノ草は、葉が赤く黄色い花が咲いたもので、モコモコ草は白いもこもこが緑色の葉の上にちょこんと咲いていた。
「分かりました」
「魔物との遭遇はできるだけ避けてください。まだ、危険だと思うので」
「もし、攻撃してきた場合は?」
「逃げることを優先してください。ここらへんの魔物は血を見ると活性化する吸血鬼の加護を持つ魔物がとても多いので、血は極力見せないように」
少女からの忠告を受け、リサは依頼書を受け取って受付を後にする。
外に出ると、ギルドの側に立つギガスがリサを見てニカリと笑った。
「冒険者登録はできたか?」
「はい。今から薬草採取をしに行きます」
「なら危険な目に合うことはないと思うが、くれぐれも気をつけろ。誰が後をつけているか分からないからな」
ギガスからも忠告を受け、リサはぺこりと頭を下げて歩き出す。
リサは依頼書を広げて、薬草が多く取れるらしい外壁の外にある魔物の森へと向かうことにした。
『魔物がでたらその時はよろしくお願いね、クロちゃん』
『行くのは魔物のほとんどいない敷地だろう。遭遇することなんて滅多にないぞ』
『なんで?』
『魔物は薬草の匂いが嫌いだからな』
『あ、なるほど』
薬が苦手とは。
なかなか魔物も幼稚な性格をしている。
『ってことはクロちゃんも薬草とか嫌いなの? 一応、魔王だよね』
『一応じゃなくて、俺が魔王だが。薬草の匂いは別に嫌いじゃない。魔物と魔人は違うし、そもそも俺は人間だからな』
『魔王って職業だって言ってたもんねー』
クロは特に苦手なわけではないらしい。
リサはハーブの香りなら好きだが、病院のような化学の匂いは好きじゃない。
薬草も草だし、匂いだけならハーブに近いだろう。
『ところで、回復薬ってどうやって作るの? まさか、すり潰すとか原始的な方法ではできてないよね』
中世風の世界観だし、場合によってはありえるかもしれない。
『回復薬は錬金術士が作っている。聖水以外の道具はほとんど錬金術士が作ると考えても過言ではない』
『ほぇー。錬金術ってそんなにすごいんだ。なんか以外』
主人公が持ってる外れスキルとか内職系のそういうやつなのに。
驚くリサにクロが眉を寄せた。
『錬金術士は今時、どこにいても重宝されるほど貴重だ。ギルドにもお抱えの錬金術士が何人もいるんだろうな』
『ほえー』
クロのうんちくを垂れ流しながら、リサは薬草採取に向けて、森へと歩き出した。
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