3. 魔女さん、ドロップアイテムを拾う
リサはクロのステータスに加わっていたスキルを眺めて噴き出した。
クロがキツネとは思えないような殺意の籠った瞳でリサを睨みつける。
愛らしさが欠落してきているのは本人の意識が足りないためだろう完全に。
「『にくきゅうぱーんち』って。ぷっ、さっすがはクロちゃん」
「クロちゃん言うな。笑うな! ......そのスキルはもう二度と使わん」
笑うリサを前にしてクロは渋い顔を作り自分のステータス画面に全力の黒キツネパンチを食らわす。
クロの拳はステータス画面を突き抜けただけだった。
ステータス画面にダメージは一切ない。もはや、最強だと思う。
リサの端末同様にステータス画面を壊すことは不可能らしい。
リサはクロが作り直した炎で両手に持った戦利品を照らす。
これはさっきの狼男風なモンスターが消えた際にドロップしたアイテムだ。
金貨や銀貨っぽいものも混じっていたが、魔物でも金を使う機会なんてあるんだろうか......。
そもそもどこで手に入れたんだ。
「ふん、聖金貨が三枚に聖銀貨が五枚、金貨が九枚で銀貨が二十か。ずいぶん、あいつら暴れ回ったようだな」
クロが地面に柄ごとに分けて置いていた金を数えて鼻を鳴らす。
リサには相場が分からないので大金なのかよく分からないがクロの口調から察するにそれなりの金額なのだろう。
「日本円に訳すと三万五千九百二十円かあ。中学生からしてみたら大金だけど、この世界での価値観の違いもあるしよく分かんないな〜」
「金貨一枚で一か月は不自由なく暮らせるだろうな」
「なんでモンスターがそんなに金持ってるのか謎なんだけど」
モンスターが落としていった戦利品の一つ。茶色い手に収まるぐらいのサイズの小袋にクロが金を詰める。
中身を無くしてへなへなしていた小袋は金を詰めてもへなへなしたままだった。ただの小袋だとは思えない様子に目を見張るリサ。
「それってただの袋じゃないよね?」
「ああ。魔道具と呼ばれている『魔法』のかかった道具の一種だ。いくらでも物を入れることができる」
「アイテムボックス的なあれですか」
ラノベの異世界ものの知識からその正体を引っ張り出し、リサが納得して頷く。新たな単語に不思議そうな顔をしているクロは無視した。
「で、クロの口調からするともしかしてお引越しでもする感じ?」
「当たり前だ。一箇所にとどまっていたらああいう連中が光に
モンスターが此処まで来たということはおそらく、他の奴らにもバレている可能性が高いとクロは踏んだらしい。というか......。
「そもそもクロ狙いなんだから、クロだけほーちしとけば私は被害に合わずに済むんじゃないかなあ?」
「......」
リサとクロの間を沈黙が横切った。
クロが冷や汗を伝わらせている。
「リサ。好きなだけもふらせてやってもいいぞ? 今だけ特別に」
「私ってもふもふしたら死んじゃう病だったかも。だから無理かも」
再度の沈黙。
クロがそっとリサに寄り添う。
クロのピンク色の可愛らしい肉球がそっとリサの服袖をつかんだ。
「リサ?」
「―――――」
「おい、なぜ目を逸らす」
クロの最大限の甘える演技はすっと目線を逸らしたリサによって無意味なものとなった。クロが偽るのをやめにして必死にリサの服袖にすがりつく。
「お前、まさか自分から召喚しておいて使い魔を見捨てるのか!? 召喚にあるまじき展開だぞ! このくそったれひよこ魔女が!」
「戦闘能力0のひよっこ魔女なの! 私ってば。無理! さっきのやつでさえ全く手出しできなかったんだから!」
「それ言ったら、俺だって今はただの獣だ! 保護されるべき対象だろ!」
動物愛護法とかこの世界にあるのかな。いや、ないな。
森のラビルを大量に狩っても何も言われてないもんね。
リサはクロに首元をつかまれてブンブン揺らされながら思った。
クロはもはや人語をしゃべれているし、元魔王だし、第一に種族使い魔だしただの動物を超えているような気がしてならない。
例え保護法があったとしても適応していない気がする。
「俺を見捨てるなんて許さないからな。召喚されたからにはどこまでもついていく。覚悟しておけよ」
キッとリサを睨むクロ。
リサは苦笑いしてクロの頭に手をやりもふ毛を撫でる。
「はいはい、分かってますよ。私だってキツネの一匹や二匹ぐらい養う余裕はあるんだから。前にも言ったでしょう? 養ってあげるって」
「数日前まで無一文で餓死寸前だったやつがよく言うな」
クロが呆れてそう言い、当然だと言わんばかりに甘えてリサの手に鼻先を突きつけた。
「見捨てるなよ」と念押しするような仕草にリサは苦笑する。
「さてと、そろそろドロップアイテムの確認といきますかね」
「どろっぷあいてむ?」
「ドロップ=落ちるでアイテム=物ってとこかな」
リサはクロの疑問に答えながらドロップアイテムの品々を見る。
金を入れたアイテムボックス的な焦げ茶色の小袋。これは普通にアイテムボックスとして使おうと思う。
アイテムボックス兼財布。
異世界ものの初期状態にはなくてはならない必須アイテムだ。
「これって特定の物を取り出したいときってどうするのクロ?」
「イメージして手を突っ込めば出てくる。金も同じだ」
「魔道具あれば最強じゃね?」
二つめは数字の刻まれた宝石。
懐中時計に見えなくもないが、元の素材は綺麗なルビーそっくりの宝石だ。
カチコチと音をたてながら時計そっくりの音を針が刻んでいく。
もう時計だと断言してもいいかもしれない。が、一つだけ問題点がある。
「なんで、この時計って10までしか数字がないの?」
数字は確かにある。しかし、並んでいるのは10の数字まで。
肝心な11と12が見当たらない。
「お前の世界には、ダンジョンが存在していないのか?」
クロが驚いた顔で言った。ダンジョンというとあれだろうか。
魔物がいつ襲ってくるかも知れぬ恐怖に襲われながら進む魔窟。
無言で好奇心を貯めるリサにクロがじと目を向け、大きく嘆息した。
「通常の時計はおそらくお前たちの世界でも同じだが数字の数は12だ。これはダンジョン用の時計。魔石時計と呼ばれているものだ」
魔石時計。聞き覚えのない新しい単語にリサは興味津々だ。
なにそれ、と好奇心のこもった目で訴え説明をクロに促す。
クロは吐息して説明し始めた。
「ダンジョン内は朝の刻が十時間。昼の刻が十時間。夜の刻が十時間の合計三十時間で一日が成り立っている。ダンジョンの中と外では時間の流れが全く違うんだ」
「あー、だから10までしかないんだ。だけど、ダンジョンの中で朝か昼か夜かなんて判断できるの?」
「さあな。俺もダンジョンに入ったのなんて一回だけだし、数時間で出たからな。目印でもあるんじゃないか?」
異世界人でさえも知らない未だ、不思議で溢れた巣窟だ。
一度でもいいから行ってみたい。
できれば何度か行きたい。
むしろ、今すぐ行ってみたかったりとリサの心境がざわつく。
クロは子供のように目を輝かせ夢を馳せるリサに流し目を送って吐息。
「大方、ダンジョンを仕切っていた連中がのそのそでてきやがったんだろうが......。どんだけ秩序が滅茶苦茶になってるのか分かったもんじゃないな」
クロの呟きは興奮して目をキラキラさせているリサには届かない。
落ち着いてきたリサは三つめのアイテムに手を伸ばした。
一見、ただの石にしか見えない。
魔石時計のように数字が書かれているわけでもなければルビーのような綺麗な石が下地なわけでもない。
どこにでも転がっているような灰色の、赤いへなへな紋章のいたずら書きがされた石っころだ。
「馬鹿っ! それは危険物だ!」
クロがリサの指先が石に届く直前に石を口に加えて取り上げる。
石をリサの手の届かない位置に移動させてからクロは怒鳴った。
「魔石爆弾だ。中にマナを送ると一定量で爆発する。お前はまだ『魔法』のオドを使う方すらしてないんだから絶対に触るな。身体のどこかを爆破したくなければな」
どうやら危険アイテムのようだ。
リサは潔く身を引くことにした。
それから思い出したようにふとクロへ問いかける。
「さっきのって魔物?」
「ああ。さっきみたいな奴が魔物だ。人語をしゃべるやつは上級。人語をしゃべれないのがほとんどだ」
「ってことはけっこー経験値とか貰えてるってことかな?」
リサが首を傾げてポケットから端末を取り出した。
倒したのはクロだが、クロはリサの使い魔という立場だ。
主人であるリサに経験値が入っていてもおかしくはない。
もしくは共有という可能性もある。
「おおー! レベルアップ!」
×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+
ハンドルネーム:未設定
実名:花王 理沙(秘匿)
種族:人間
職業:魔女(指定)
レベル10
体力100
魔力10,000
スキル 『魔女の血縁者』 ???型
神々の加護を受けている。この世界において言語翻訳や認識阻害などが可能。日常生活に困らなくなる。
スキル 『使い魔召喚』 職業限定型
使い魔を召喚できる。体力と魔力を大幅に消耗する。契約できるかは本人次第。ただし、一匹目はサービスで無償で契約することができる。体力の消費は召喚する使い魔の力に比例する。
▶︎New スキル 『初級魔法スキル』
全初級魔法スキルが使用可能。
♪初級魔法一覧がオープンしました
×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+
×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+
ハンドルネーム:クロ
本名:???
種族:使い魔
職業:魔王
レベル10
体力2,000
魔力4,000
スキル 『にくきゅうぱーんち』 攻性型
肉球で相手を塵にする。「にくきゅうぱーんち」と言うことが必須の発動条件であり、その言い方の可愛さ度で威力が変わってくる。判定の点数は発動後にステータス画面に流れてくる。最高得点は自動的にステータスへ記入される。
最高得点:二十点
×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+
「いっきに10も!?」
「そりゃまあ、あいつだって上級魔物だしそれぐらいは上がるだろう。むしろ、俺と分割されて少ないぐらいだ」
やっぱりクロと経験値は半分っこずつなようでクロのレベルも10だった。ただ、スキルは......。
「『にくきゅうぱーんち』」
「黙れ」
(ファイアーボール! ウォーターボール! アイスボール! ドロバクダン! ......最後のおかしくね?)
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