第35話 『飾り棚のノベルドール』

 突然、自称ポストアポカリプスものの短編を書きあげておりました、ピクルズジンジャーです。こんばんは。

 

 昨年末で完結させた長編で完全燃焼してしまい、小説を書く筋肉がガタガタになってしまいました。

 おかげで新しい小説を書きたけれどにっちもさっちもいかない……という状態になってしまう始末。リハビリ代わりに二次創作を書いてはいるけれど、やっぱりオリジナルが書きたい! という気持ちが臨界点を突破してしまい、前から書きたかったノベライドルネタで書き上げたのが本作になります。


 ただもう新作を書きたい! という一念と、ノベライドルという時代の徒花のようなキャラクターのことを知ってもらいたい! という身勝手な思いから拵えた短編なものでクオリティはいつも以上に自信がありませんが、それでも新作が書けた喜びでいっぱいになりました。書き手としては満足いたしております。



 ところで皆さま、さっきから時々出てくるノベライドルに関してですが、御存じの方はいらっしゃいますでしょうか? 失礼ながら「なんじゃそりゃ?」という方が多いのではないかと推測します。


 とりあえず出来る範囲で説明いたしましょう。

 自己啓発書などで有名な出版社・ディスカバー21さんが、(一体何を思ったのか)2010年代中ごろから突然ラノベやライト文芸出版にやる気を見せだし始めます。

 その意気込みや志はなかなか高かった模様で、今までのラノベやライト文芸レーベルでは見られないようなプロジェクト込みで新たなレーベルを立ち上げたわけですよ。それこそが「ノベライドル」でした。

 レーベル名兼イメージキャラクターがノベライドルなわけですよ。ノベル×アイドルな造語が、ですよ。


 は? レーベル名とイメージキャラクター名が一緒ってどういうことやねん? と混乱されることが多いでしょう。もうちょっと説明してみます。


 ノベライドルこと、新人アイドル兼新人作家兼京都の女子大生・文野はじめさん(愛称・ふみのん)。彼女はなぜかアイドルにも関わらず小説家活動も始めることになったらしく、ファンタジーやら恋愛小説やらミステリーやらSF小説やらを次々に出版していきます。そんなしょっぱなから消化しづらい設定を背負っているキャラクター・文野さんが執筆した小説ですよ、という体裁で売られる小説の一群が、ノベライドルというレーベル名で販売されていたわけなのですよ。

 つまり、このレーベルで活動すると必然的に文野さんの中の人というわけになっちゃうわけで……え、なるの? ならないの? ああもうわけわからん! ……もう面倒くさい! このまとめが詳しいと思うから読んでくだされ。


 https://matome.naver.jp/odai/2143237695609384401


 ――まあ、ざっとまとめると「初音ミクとラノベレーベルを魔合体させたけど派手にスベったプロジェクト」みたいなことでいいと思う。多分。


 死者に鞭打つようで申し訳ないけれど、まあでもスベったのも致し方ないコンセプトと申せましょう。数年前に初めて書店で彼女のことを知り、杉下右京ばりに「はい?」と言いかけた時から未だに彼女とそのプロジェクトに対するイメージはワケが分からないままですよ。斬新すぎて、着いて行き方がまるでわかりませんよ? ボーカロイドを歌わせたい人はたくさんいるだろうけれど、自分の書いた小説をノベライドルとかいうヴァーチャルアイドルが書いた体裁で出版してもいいですよという人はなかなかいないのではあるまいか……? たとえ中の人が丸見えの仕様だったとしても。


 そんな、頭の中にクエスチョンマークがいくつも飛び交うプロジェクトであったために私の中では強いインパクトをもたらしたノベライドル……。こうしてレーベルも、ノベライドルというヴァーチャルアイドルの存在がおそらく無かったことにされようとしている今もしつこく覚えているわけだから、「インパクトを残す」ということに関しては成功したとはいえるでしょう。インパクトだけのこしてもどうにもならんだろうという教訓を残しつつ……。


(もしかしたら、ノベライドル立ち上げのきっかけにはこの頃人気のあったボカロ小説の影響があったのかも……)


 そんな時代のあだ花となったノベライドルですが、活動ほぼ休止状態、ディスカバー21さん主催の小説投稿サイト・ノベラボもどうやら閉鎖された昨今、コンセプトのインパクトが大きかった反動で「あれは一体なんだったんだろう?」的な寂寥感も大きくなるわけです。たとえるならそうですね……、廃園になった遊園地跡を見るような、大きな博覧会で注目を浴びた後解体されることなく放置されているパビリオンの廃墟を見る様といいますか、惨い言い方をしますなら現役で彼女が稼働していた時より何とも言えない鄙びた味わいがノベライドル周辺には漂っているのです。


 その雰囲気が放つ魅力にひきつけられずにはいられなくて、気が付けば何パターンかノベライドルではなく小説を書くヴァーチャルアイドル(しかし誰からも顧みられず打ち捨てられている)・ノベルドールの物語を時々思い出してはああでもないこうでもないと考えていたのでありました。


 当初は人工知能を搭載した人間大の機械人形・ノベルドールが作家志望の女子大生の元にやってくる……的な、ちょっと百合っぽい設定で話を考えておりましたが、どうにもうまくいかなかったので今回のようにがらっと雰囲気を変えてやっております。


 文明が滅んだ後の物語なのでポストアポカリプスのタグをつけましたが、SFというには緩くてもうしわけない。あと、森奈津子さんの「テーブル物語」に直近の影響受けていますね、と白状しておきます。


 なんだかノベライドルに対する解説で終わったようなあとがきで本編に対する言及ができませんでしたが、物語の内容的にクダクダ語るようなものでもありませんしね。


 それでも一つだけ付け加えましょう。

 大昔に『春香伝』の岩波文庫版解説を以前読んだときに「李氏朝鮮時代は漢文や漢詩が尊ばれ、平民にも読みやすいハングルで娯楽小説などを書くことが大変蔑まれており、作者たちは匿名で執筆していた」といった旨のことが書かれていたことが強く印象に残っていて、物語を書くことを咎める本作の未来社会のインスピレーションもととなりました。できればまたこの「物語を書くと蔑まれる社会」をテーマに創作してみたいですね。


 それではこの辺で失礼します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る