第14話 ※追記アリ『える子故郷へ帰る。』
「前作(『月夜の森の魔女学校』のこと)の終わりにPV数があまり伸びなかったことを悩んでたそうですね。で、PV数が期待できそうなジャンルに挑戦してみようと? 異世界もののファンタジーや青春ラブコメは難しそうだけど、大人の女性向けの恋愛なら挑戦のし甲斐があるんじゃないかという気持ちで取り組んだと伺いましたが?」
「……ええまあ」
「でもこの作品、思いっきり先行作品(『ショッピングモールのえる子と私。』)の続編ですよね? ご新規さんが欲しかったくせに自分から思いっきり間口狭めてますよね? しかも先行作品思いっきり百合ものだし。百合だから気に入ってくださったかもしれない読者の方がいらっしゃったかもしれないのにその続編でいきなり異性愛カップルのいちゃつきから始まっってしまって前作を気に入ってくださった方がガッカリされるかもしれないというリスクは考慮されました? それに女性読者を意識されたそうですけどのっけから月経ネタで始まったりしてますし……。女性読者もかなり引いたんじゃありませんか?」
「……(何も言えない)」
「それに異性愛カップルの恋愛を期待されていらっしゃったかもしれない読者が同性愛カップルのいちゃつきを楽しんでいただけるかどうかは甚だ不安ですし……。新規読者の獲得を狙うにはあまりにリスキーな作品だと思われますが、どうしてこの作品を書くことになさったんです?」
「……すみません、どうしても使いたいネタがあったんです……。先行作はコンテスト参加作品だったんですが、規定文字数に収まらなくてなくなく削ったネタがあって……どうしてもそれを拾って成仏させたかったんです……」
「なるほど、読者よりも自分の書きたいものを優先したというわけですね。一応お伺いしますが、そのネタって何なんですか?」
「…………える子の父が、二人の仲を認める気になったは『お●ん』にとてもよくにた大ヒットドラマを見たからっていうネタです……」
「……あんた……、そんなネタ後生大事にかかえてたんですか! 捨てなさいよ、いつから入っていたのか分からないポケットの中の飴玉みたいなネタっ! 一番捨てなきゃいけないやつでしょう!」
◆
おサムい対談方式で始まってしまってもうしわけありません。
このようなインサイドヘッドと付き合いながら書かれた物語がようやく終わりました。……思いついてしまったものはどうしても入れたかったのですよ……。
◆
まあ、なんで十四だかそこらで故郷から遠く離れた異世界で一人逞しく生きてんだか、この娘は? という興味からいつかえる子というキャラクターの過去を書いてみたいという願望は前からありました。
昔つきあっていた女の子の別れがきっかけになって故郷を飛び出たことや、える子の故郷はとてつもない田舎というか辺境であることはその時からぼやーっと考えていたことです。
ちなみに、える子たちは耳が尖っていて魔法がつかえるので佐藤美里の属する世界の人たちは雑に「エルフ」と呼ばれていますが、向こうの世界ではあくまで少数民族という扱いです。
独自の生活文化を持ち、隣国や隣々国にわたる広範囲な森を居住区にしているのでたびたび同化政策の犠牲になったりしたり、狩猟遊牧民なのに定住化政策を押し付けられたりで国政の犠牲になってきた歴史があったりします。故にえる子は「中央のバカったれ」などという口を利く程度には政府に批判的な一面もあったりします。まあ裏設定ってやつです。
◆
大人の女の人向けの恋愛小説に挑戦したかったのも、嘘じゃないんですよ。
「女による女のためのR‐18文学賞」という新潮社主催の文学賞があるのですが、好きでよくよむ作家さんの中にこの賞出身の方が何人かいらっしゃいます。で、読むうちに自分なりに女性向けエロあり恋愛小説に挑戦したいという意欲が芽生えるようになったのでした。
女性向けエロといっても「生娘ないし喪女の肉体に経験豊富なイケメンがなんでだか知らないが勝手に溺れる」というスタイルのものにはちょっと思うところがあり、「とにかくヤリたい気持ちになったら自分からアクションをおこす女の人にしよう」ということだけを決めたらあんな感じになりました。あれでよかったんだろうか……。
◆
白狼というキャラクターがああいう感じなのは「年下の男の子」とか「プレイバックPARTⅡ」など昔のアイドル歌謡の歌詞で歌われる男の人イメージ元になっているせいです。カッコいいというより可愛げのある男の人が書いてみたかったのでしょう。
でも作中のえる子、陽蜜、白狼は同い年という設定です。
◆
色んな意味で手がかかったのが陽蜜(燐火)でした。
チャキチャキしたイメージだったのでつけた名前「燐火」が実は鬼火とか人魂だの不景気で陰気な意味で慌てた……というのは何を隠そう私本人です。
そこからしれっと名前を変えようとか、漢字だけ変えようとか、色々考えましたが、結局名前にキャラクターを合わせるという方向でしのぎました。終盤で突然発火魔法能力云々が出てくるのはそのせいです。
陰気な意味合いが込められた名前に引っ張られたせいか、実は結構思い悩んだり秘密を隠し持ったりするキャラクターになりました。
◆
本作のキーアイテム・ターキッシュディライトですが、もちろんあんな催淫効果はありません。あれはえる子の村の人だけに出る効果です。
このお菓子をオーストラリアにいる身内のお土産として一度食べたことがあり(そのせいで本作の主な舞台が南半球になっています)、その時の感想を物語に活かした結果あんなことになってしまいました。
きれいでエキゾチックで蠱惑的で、なるほど悪い魔女が子供をたぶらかすとき与えるのにぴったりなお菓子であるなあ……と感心したのですよ。ただ、日本の子どもには難易度の高い味だと思いました。
なんというか、本作がこのお菓子に対するイメージに瑕をつけることになったのではないかとおびえております(まあそんな影響力のある作者でも小説でもないけれど……)。すみません。
ちなみに実はナルニアの物語は『ライオンと魔女』以降読んでません……。あれは真ん中っ子にケンカ売ってる話ですよ……。次男が可哀そうじゃないか、長男長女も面倒な末っ子の世話を次男一人にに押し付けたことをなんで反省せんのか(と、読んでて腹立って以降読まなかった)。
◆
初めて会ってから十年近くたち、いい感じにグダグダしているえる子と美里が書けたのは楽しい作業でした。
佐藤美里は他の登場人物に比べてえあまり際立った個性がない人なので、奇麗な女の人や可愛い女の人をついつい見るという特徴を強調したり、普段は手のひらでえる子を転がしている側なのだろうという様子を書いていて初めて「ああこの人こういう一面もあるのだな」と理解できるところがありました。
える子父も書いていて面白いキャラクターだったので、いずれ美里母も出して「ダーマ&グレッグ」みたいなコメディーでも書けたらいいなという目標ができましたが、そのネタがたまるのはかなり先になりそうです。
◆
ユールトムテはスウェーデンにいるクリスマスの小人、クランプスはヨーロッパ中部にいるなまはげ的な性格をもつクリスマスの怪物から借用しました。
最初はクランプスは子供たちのプレゼントを狙うギャングで、ユールさんがその内通者で陽蜜がガンガン暴れる……というクライムチックなストーリー案もあったのですが明らか手に余るのでああ行く形に落ち着かせました。やらなくて大正解でした。
ユールさん、ルドルフさん、クランプスはキャラをたてる余裕がないので口調に特徴を持たせるという安易な手段をとりました。ルドルフさんのしゃべり方は有名な声優さんの口調を参考にしています。
◆
今年の冬至が12月22日だというのを書き始めてから気が付いたせいで、零細企業の社員の二人が年末にあれほど長期な休みを取るという「この作者まともに社会に出て働いたことがねえな」というのが丸わかりなスケジュールを強行せざるを得なくなりました。二人をやとっている別作品の登場人物に謝りたくなったものです。本当にごめんよ。
別に2017年の出来事に限定しなくてもよかったんですが、話を考えやすかったので……。ちなみに拙作の中でやたら長いタイトルのやつと同じ年の出来事ということになってます。
あとこの世界と異世界の自転や公転周期どうなってんだと気にされる方もいらっしゃるかもしれませんが、都合のいいことにそれぞれほぼ同じで、時差もあまり生じないということになっています。現代魔法って素晴らしいですね(他人事のように)。
◆
相変わらず言わなくてもいいようなことをペラペラ明かしているあとがきでになりました。
本編も勢いですすめたせいでボロボロ穴まみれですしね……。
柄にもなくエロを含む恋愛というものに挑戦した物語ですが、楽しんでいただけたのかどうか……。
とりあえずあんまり私にエロは求められてないっぽいなという手ごたえを得た状態で本作を閉じさせていただきます。
(追記)
陽蜜がフリーダムに過去を振り返る構成なので、過去三人になにがあったのかわかりにくいのではないか? 時系列にそったまとめでも作った方がいいかしら?
……みたいなことを近況ノートで書いていたのにすっかり忘れておりました。
やばい、用意しなきゃ……! と自分で読み直してたらどう見ても年齢があわないじゃないか!
ということまであわあわして本編を修正しつつ時系列を整理しました。書きながら話を進める方式にするとこれだから……。
以下、大体こんな感じの流れです。
陽蜜(燐火)、銀鹿(える子)、白狼は同い年で、三人それぞれ年が明けたら一つ年をとることになっています(昔の人と同じシステムです)。
11歳夏……陽蜜、白狼をおぶって帰る。
11歳秋……銀鹿、狩りでおとり役になる(この時に燐火に強い印象をもたらす)。
燐火と銀鹿、初潮をむかえる。
12歳冬……燐火の発火能力発覚。名前をもらう。
13歳夏……燐火と銀鹿が恋人に。
13歳秋……燐火と白狼が接近する。
13歳冬……燐火が白狼になまえをつける。
14歳冬……銀鹿村を出る。
……大体このような塩梅です。
この年の秋に佐藤美里と出会います。
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