MagicaAnima(マギカアニマ)

丹下和縞

序幕 始まりは空から

第零話   『召喚は突然に』

 落ちている。

落ちる感覚と言うのは目をつむっていてもわかるもので、慣れていない人間からすると一種の不快感にも感じられる。

投げ出された体は無数の小さな光を抱く闇を抜け、やがて大いなる光を浴びる。その光が瞼の裏を焦がして思わず目を開けた。

彼の体は世界の彼方から投げ出され、雲の間をとんでもない速度で落下し続けていた。




◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 時間は数分前に遡る。


 大学帰りは必ず行きつけの精肉店でコロッケを買ってそのまま神社に寄る。

神社に行くのは別に神様に祈ったりだとか信仰心によるものではなく、ただ単に一人でだらだらしたいからである。


名前は霜月アキラ。この都市内に住む目立たない普通の大学生。

もっともアキラの両親はある意味この都市内では有名人であるのだが。



山の中にあるこの日神神社は入り口からはしばらく長い階段が続いており、境内に入る前には石造りの大きな鳥居がある。そこをくぐると木々に囲まれた境内、なんとも言い表し難い神秘的な空間が広がっている。この神社は夏は風が通り、冬は日がよく当たる。

アキラのお気に入りで、この蒸し暑い梅雨の時期にも快適な時間を提供してくれる数少ない場所であった。



「おばちゃんサービスでコロッケ3つ入れてくれるなんてラッキーだぜ」



いつもの行きつけの精肉店のおばちゃんが「今日はもう店じまいだからサービスねぇ」とコロッケを二つもおまけしてくれたのだ。

山に吹き抜ける風にアキラの独り言はかき消されて、誰に届くこともない。



「おし、今日もしばらく涼ませていただきますねっと」



階段を登りきった所にいる狛犬たちに声をかけ、石造りの大きな鳥居をくぐり、定位置へと向かう。

ここまではいつもと変わらない日課の一部であるのだが今日だけは違った。

鳥居を抜けてしばらく境内を進んだアキラの足元が突然謎の光を放ち始めた。よく見ると幾何学模様のようで、複雑だが規則的な模様であることがわかった。まさかそんなファンタジーが現実にあるのかと思いつつも危険を察知して飛び退こうとした。

しかしその飛び退いた先まで魔法陣は大きく広がり光を強くしていく。

そしてみるみるうちにアキラの体を包み込んでいった。



「うおっ、眩しッ!」



思わず目を手で覆った次の瞬間にはアキラの体も気配も神社の境内から消えていったのだった。





◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 心の中のどす黒い何かを拭い去るような、今までに感じたことのないほどダントツに爽快な風が体を吹き抜ける。眩い光に思わず目を開けると眼前に広がる見たことのない町に驚くと同時に、今自分が置かれている状況を理解した。


とてつもなく高い場所から落ちている。投げ出された体は抵抗もできず速度を上げて地面への衝突という絶望的カウントダウンを始めていた。

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