タケルの書

K53

第1話

タケルの書


シシの巻


日は沈み、薄暗くなった道をタケルはさっき手に入れた棒を持って歩いている。

辺りは、カエルの鳴き声が響いている。


タケルは小学4年で村に1つしかない学校に通っている。生徒は10人しかいない。それも、4年生はタケルひとりだけだ。家が遠いので、帰りはいつも歩いて3時間はかかる。

今日は、学校でシシ語を習ったがタケルはこれが苦手で何度も何度も土間野先生に聞いた。


学校を出るとすぐお堂がある。ここは昔学校だった所だ。 約100年前まで学校として使っていた。今はかなり古くなっているが年に一度の祭りがある為、村人みんなで守っている。ここには馬頭観音が祭られている。今日もタケルは、学校に行く前と帰りに馬頭観音に挨拶をしている。

「うまかのんちゃん、おはよ〜。今日は寒いよ。」とか「うまかのんちゃん、今日は給食うまかったよ!」などとはなしかけるのが習慣だ。

今日の帰りは「うまかんのんちゃん、

遅くなっちゃった。また明日。あれっ、この棒いーね。」

タケルが言うと、棒が倒れてきてちょうどタケルの手に収まった。

それは、朝には無かった棒が馬頭観音の脇に立て掛けてあった。それが、タケルの言葉に反応して倒れてきたような感じだ。

タケルは「うまかんのんちゃん、ありがとう」とお礼を言って棒をフリフリ歩いていく。


なんだかその棒はタケルには大きく見えた。しかしタケルは、自分の思うように動いてくれるようでとてもニコニコしてる。だからついつい棒を振って歩いて行く。


「タケル、キョウ、オソイ」

ふとタケルの耳元で声がする。

「ゴメン、カル!シシ語がわからなくって、ドマちゃん先生に聴いてた。」


「タケル、シシゴ、ヘタ」

カルは、小さな小さな人間のようでタケルの肩に乗って話している。

カルは、タケルが小さい頃からずっと一緒にいる友達だ。

カルは、普通の人には見えない。

だから、タケルがカルと話していると独り言を言ってるように思われてしまう。


だいぶ家に近づいたころ、後ろからドスドスというすごい足音が響いてきた。


タケルは後ろを向いて、

「ダーダーバー」

と叫ぶと足音がピタッとやんだ。


シシは普通の人には見えない。タケルにも見えない。


タケルは

「シシさんか」

とつぶやくと何ごともなかったように歩きだした。


遠くで稲妻が⚡️光っている。


肩に乗ったカルは

「タケル、ウエ、クル」

と叫ぶと


タケルは棒を上で円のように回した。

猿がタケルに向かって上から5匹襲ってきたが全て棒に払われてしまった。


猿達はタケルの棒を怖れて近づいてこない。


タケルは、この棒がとても気に入った。


タケルが家に向かって歩きだすとまたドスドスとすごい足音が響く。


また、タケルは振り向いて

「ダーダーバ」

と叫んだが足音は止まらない。


雷がバリバリと⚡️鳴り響く。


だんだんだんだん、すごい足音は、近づいてくる。

ドスドスドスドス、カルはタケルの髪を引っぱり

「タケル、デカイ、キケン、アタル」

と叫ぶ。カルには、見えているがタケルには見えない。

タケルは棒を前に構えたまま、眼を閉じた。デカイ獣が近づいてくるのは、気配と音でわかる。タケルは棒をギュッと握りしめた。


急に辺りは、静かになった。


頭上から、声が降ってくる。

「タケル、良くやったな!!!」


タケルの目の前にパサッと音がして、土間野先生が立っていた。


「ドマちゃん先生」


タケルが、驚いていると

「タケル、これがシシ様だよ。学校を守護してくださっている。」

土間野先生がタケルの目の前で左右の手を交差して指を鳴らすと突然、大きな白い猪が現れた。


タケルは、驚いたがすぐに、ニッコリして

「シシさん、こんにちは。すごくビックリしたよ‼️」


シシ様は、ジッとタケルを観て、

〝いい眼をしてる!感もいいな。おめでとう〟

と、心に浮かんできた。

タケルは、これはシシ様の言葉だと感じ

「ありがとう、シシさん。」

とお礼を言った。


土間野先生は

「タケル、今日の試験は合格だ。💮25年ぶりの合格者だ。おめでとう‼️」


「合格?ってなに。」とタケルが聞くと


土間野先生は、嬉しそうに

「実はな、今日は年に一度のシシ様の試験だったんだ。合格はタケルで5人目で25年ぶりの合格者だぞ。」


「本当‼️嬉しい。でも、なんでシシ語全然できなかったよ。」

とタケルが言うと


カルが

「ヤッタ、タケル、ヤッタ」

とタケルの肩の上で踊っている。


土間野先生は、

「本当にシシ語は、覚えが悪かったけどね。言葉じゃないんだ。重要なことは、心なんだ。」

と嬉しそうに話す。


シシ様はタケルの前に来て

〝タケルは、この先仲間を集める旅に出る。11年かけてこの地に帰り、儂に逢うことになっている。〟


「そうなの。何処に行けばイーんだろ。」

タケルは不思議に思った。


シシ様は

〝いずれ、時が満ちればわかる〟



「分かった。わからないけど、わかった。シシさん、こっちは友達のカルだよ。」

タケルが言うと


シシ様は

〝いいコンビだ。カル、タケルを頼むぞ〟


カルはタケルの肩の上から下りて

「ファイ、タケル、イイヨ」

という。


土間野先生が

「君がカル君か?」


と言うと

タケルは、驚いて

「土間ちゃん先生にカルが観えるの」

と聞く。



「もちろん、君のかわいいはじめての仲間だもんね。」

と先生が言うと


カルはタケルの肩の上パッと飛び乗った。


土間野先生は、真剣な顔をして

「タケル、さっきシシ様が言った時はいずれ来る。それまで、しっかりと学ばなければいけないよ。」


タケルはうなづくと


土間野先生は、ニコリと笑い。

「今日は、もう遅いから送っていこう」


タケルは、フッと軽くなるのを感じた。いつの間にかシシ様の背中に乗ってあっという間にうちに着いた。


タケルは、お礼を言ってうちに入った。



遠くで馬のいななきが聴こえる。



おわりのはじまり






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